蜀犬 日に吠ゆ

2011-05-13

[][][][][]夏のうた を読む(その9) 20:11 はてなブックマーク - 夏のうた を読む(その9) - 蜀犬 日に吠ゆ

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 草枕旅に物思(ものも)ひわが聞けば夕片(ゆふかた)設(ま)けて鳴く河蝦(かはづ)かも

                       よみ人しらず


 『万葉集』巻十。「草枕」は旅にかかる枕詞。「夕方設けて」は夕方になって。古代の人々の旅は実際にはどんな風にして行われていたのだろうか。いずれにせよ私たちの観光旅行のようなものはほとんどなかった。よほどのことがなければ、人は旅に出たりしなかった。不便だし、飢えその他の危険もあった。その旅に出て、日暮れ時、川べりでカワズ(万葉ではカジカを指すことが多いが、この歌ではふつうのカエルかもしれないという)を一人聞いている男。

大岡信『折々のうた』岩波新書

 カジカであるカハヅは、蚯蚓と同じように川で鳴くと思われていた。ので、聞いた声はカエルでしょうね。よみ人がイメージしたのがどちらかは、わからないわけですが。


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 五月雨(さみだれ)や御豆(みづ)の小家(こいへ)の寝覚(ねざ)めがち

                     与謝蕪村(よさぶそん)


 「御豆」は淀川と木津川の合流点に近い淀東南の地名。このあたりは土地が低く、湿気ていて、さみだれの季節には川が氾濫をおこしやすい。そのおそれから、屋根をしばしば雨がたたく季節がやってくると、一帯の小家に住むつましい人びとは眠りも浅く、寝ざめがちになるというのである。蕪村には「さみだれや大河を前に家二軒」という有名な句もあるが、御豆の小家のさみだれの哀れ深さには及ばない。

大岡信『折々のうた』岩波新書

 しかし、氾濫がなければ慣れてしまうのも人間の本性。土地が低く、湿気ている場所に住むのは、経済的合理性。

折々のうた (岩波新書 黄版 113)

折々のうた (岩波新書 黄版 113)