蜀犬 日に吠ゆ

2011-05-18

[][][][][]夏のうた を読む(その10) 20:11 はてなブックマーク - 夏のうた を読む(その10) - 蜀犬 日に吠ゆ

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 淀河(よどがは)の底の深きに鮎(あゆ)の子の 鵜(う)といふ鳥に背中(せなか)食はれてきり\/めく 可憐(いとを)しや

                        梁塵秘抄(梁塵秘抄)


 平安歌謡。鵜飼の情景だろう。鮎が身もだえして逃げようとはねる様を「きりきりめく」と形容しているところなど、表現に大いに生彩がある。淀川などの川べりに群れて春をひさいでいた遊女らの愛誦した歌かもしれない。そうだとするなら、鵜につかまっってきりきりめいている鮎の子に、なにがしか彼女ら自身の運命をも感じとっていたか。後世の芭蕉の句、「おもしろうてやがてかなしき鵜舟哉」と並べてみるのも一興だろう。

大岡信『折々のうた』岩波新書

 命を奪う、残酷な見世物ではありますが、魚くらいに離れていると感情移入もうすくなるのでそれほど問題視されないのでしょうね。しかし、梁塵秘抄のベースにある仏教的世界観は「生きとし生けるものすべて同じ」ですから弱いものへのまなざしが細かい。


20

 ゆふぐれは雲のはたてにものぞ思ふ天(あま)つ空なる人をこふとて

                    よみ人しらず


 『古今集』巻十一恋。「雲のはたてに」は雲のはてに。「天つ空なる人」は天上にいる人、つまり手も届かぬはるかな高みにいる想い人。作者はたぶん男性で、想う相手は、当時の身分制度のもとでは手の届かぬ高嶺の花の女性だったのだろう。しかし一首には、そういう現実の事情をこえて、恋する人に共通のあこがれと悩みが歌われている。この歌は広く愛誦され、空をながめて嘆く片思いの歌の一典型となった。

大岡信『折々のうた』岩波新書
折々のうた (岩波新書 黄版 113)

折々のうた (岩波新書 黄版 113)