蜀犬 日に吠ゆ

2011-05-25

[][][][][]夏のうた を読む(その16) 19:07 はてなブックマーク - 夏のうた を読む(その16) - 蜀犬 日に吠ゆ

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 昭和衰(おとろ)へ馬の音する夕かな

         三橋敏雄(みつはしとしお)


 『真神(まかみ)』(昭四八)所収。大正九年生まれ、昭和十年代に新興俳句の新人として出発した。句は昭和四十年作の無季句。「昭和衰へ」と断じてその理由は説かないのが、直観と実感をもって語を吐きだす俳句の行き方だが、一歩誤ればたわいない空語となる。この句の場合、中七以下に「馬の音する夕かな」のけだるい暗がりがあって、初五の「昭和傾けり」の実感が生かされている。この馬、ダービーの馬場にはいなかろう。

大岡信『折々のうた』岩波新書

 どころか、昭和の亡霊どもが平成を食い荒らしているわけでして。世代間闘争の話ではありませんが、昭和に作った国家やシステムが、頑固に屈強に日本を駄目にしている進行形なんですよね。

 句集の『真神』とは、オオカミの古語。だそうです。Goole 情報。


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 老残(らうざん)のこと伝はらず業平忌(なりひらき)

                能村登四郎(のむらとしろう)


 『咀嚼音(そしゃくおん)』(昭二九)明治四十四年生れの現代俳人。業平忌は元慶四年(八八〇)没の在原業平の忌で旧暦五月二十八日。『伊勢物語』の主人公と目され、劇的な艶聞で知られる情熱の歌人業平は、五十五歳で没した。この美男の老残の日々について、さだかなことが何ひとつ伝わらない点に、作者は業平という詩人の真骨頂を感じたのだ。ふしぎにも美女小野小町には衰亡伝説が多いのだが。

大岡信『折々のうた』岩波新書

 『咀嚼音』てのもすごいタイトルですねえ。「ふしぎにも」って大岡先生はすっとぼけてますけど、男女差別ですよね。単純に、文化の担い手も受け取り手も、男の側の目線が中心を占めているというだけのことでしょう。

折々のうた (岩波新書 黄版 113)

折々のうた (岩波新書 黄版 113)