蜀犬 日に吠ゆ

2011-05-27

[][][][][]夏のうた を読む(その18) 18:54 はてなブックマーク - 夏のうた を読む(その18) - 蜀犬 日に吠ゆ

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 人生五十 功無(こうな)きを愧(は)ず

 花木(かぼく) 春過ぎ 夏すでに中(なか)ばなり   細川頼之(ほそかわよりゆき)


 十四世紀の武人政治家。室町幕府の管領として足利義満を補佐し、功があったが、五十一の時、対立する小人どもにおとしいれられ、讃岐の旧領に帰った。その折りの七言絶句「海南行」の初二句。続く二句で、部屋にはアオバエ(のごとき者ども)が満ちて追い払うこともできぬ。いっそ立って座禅の床をさがし、さわやかな風の中で寝ころぼう、と歌う。自己卑下の語調は、いうまでもなく反面に昂然たる思いを秘めている。いつの世にもありうべき人生の感懐だろう。

大岡信『折々のうた』岩波新書

 そういう時こそとんちだよ、と一休さんならいいそうですが。


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 ともし火に我(われ)もむかはず燈(ともしび)もわれにはむかはず己(おの)がまにまに

                     光厳院(こうごんいん)

 光厳上皇は十四世紀南北朝時代の北朝初代天皇。戦乱に転々とし晩年は禅僧生活を送った。花園院の指導で『風雅集』を撰し、和歌史に名をとどめる。生涯の歌百六十五首が残る。右は『光厳院御集』雑の部の、夜ふけに燈火とひとり向かい合っている深沈たる心境を歌った六首連作の一つ。燈火と自分自身と一室にあってたがいに静まりかえっている。近代の秀歌にも通じる内面に目を向けた作。

大岡信『折々のうた』岩波新書

 燈火にも自我がある、としたところが面白い。

折々のうた (岩波新書 黄版 113)

折々のうた (岩波新書 黄版 113)