蜀犬 日に吠ゆ

2011-05-28

[][][][][]夏のうた を読む(その19) 19:20 はてなブックマーク - 夏のうた を読む(その19) - 蜀犬 日に吠ゆ

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 いつはりの人ほど歌は巧(たく)みなりうち頷(うなづ)くな姫百合(ひめゆり)の花

                     落合直文(おちあいなおぶみ)


 『萩の家歌集』(明三九)所収。戦前に小学教育を受けた人なら、明治以来長く愛唱された直文の長詩「孝女白菊の歌」を知る人も多かろう。明治中葉「あさ香社」を結成、与謝野鉄幹、金子薫園、尾上柴舟らを育て、同三十年代の和歌革新運動をよび起こした。うら若く純真な乙女に言葉たくみに近づこうとする令色漢を諷した歌とも読めるが、辞句の巧みだけの歌に対するいましめであることは言うまでもない。歌はやや古風だが、上三句の率直さがこの歌人の身上。

大岡信『折々のうた』岩波新書

 「言うまでもない」ならいうな! とは思いません。それほど言うまでもないとは思えません。辞句の巧みを戒めるなら、子規の新古今批判から進歩していない。色恋へのいましめに見せかける技巧があっての作でしょう。


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 歌よみが幇間(ほうかん)の如(ごと)く成(な)る場合場合を思ひみながらしばらく休む

                       土屋文明(つちやぶんめい)


 『少安集』(昭一八)所収。土屋文明は伊藤左千夫門下だが、同門の島木赤彦、斎藤茂吉、古泉千樫、中村憲吉らより後輩。アララギ派の新風の代表者となり、昭和期に入って青年歌人に大きな影響を与えた。批判的な知性が群馬県高地の農村出身者の一徹な野生と結ばれ、強い個性的魅力を放つ。昭和十五年、戦時体制強化の時代に便乗する歌人たちを見すえつつ、自らをも鋭く省みている歌。

大岡信『折々のうた』岩波新書

 字余りってレベルじゃねーぞ! どこで切ってよいのかしばらく悩む。

 歌よみが/幇間の如く/成る場合場合を/思ひみながら/しばらく休む

 か? 「成る場合場合を」は「なるばいばいを」か? 万葉ぶりがおおらかとはいえ、これはちょっと大らかすぎるのではないか。

折々のうた (岩波新書 黄版 113)

折々のうた (岩波新書 黄版 113)