蜀犬 日に吠ゆ

2011-05-30

[][][][][]夏のうた を読む(その21) 19:34 はてなブックマーク - 夏のうた を読む(その21) - 蜀犬 日に吠ゆ

41

 ゆるやかに着てひとと逢ふ螢(ほたる)の夜(よ)

            桂 信子(かつらのぶこ)


 『月光抄』(昭二四)所収。日野草城に師事した新興俳句出身の女流。女性の官能のみずみずしい揺らぎを敏感にとらえ、言葉のうちにやわらかく抱きとる作風。結婚後わずか二年で夫に死別した。若くして寡婦となった体験がその後の作句歴に深い影響を及ぼしたようだ。螢が水辺に舞う宵、薄い着物をゆるやかに着て逢う相手は、男性か女性か。成熟した女のういういしさとおちつきと。

大岡信『折々のうた』岩波新書

 とくに夏は和服がよい、と思いますがそういう風潮は生まれませんね。自分から世の中を変える気力も、もちろんありません。


42

 満巷(まんかう)の蝉声(せんせい) 槐影(くわいえい)の午(ひる)

 山童(さんどう)戸(こ)に沿(そ)うて 香魚(かうぎょ)を売る   菅 茶山(かんちゃざん)


 『黄葉夕陽村舎詩(こうようせきようそんしゃし)』所収七言絶句のうち転結の二句。備後国(広島東部)生れの江戸後期の儒者・漢詩人日常の諸情景を、実感に即し印象鮮明に歌って詩界に新風を開いた。茶山の叙景詩は昭和初年代に愛読された「四季派」の先駆の観がある。うだるような暑さの夏の午後、村中に蝉声が落ち、槐(えんじゅ)の影もくっきり落ちているあたり、村の子が一人家から家へアユを売って軒下を伝ってゆく。

大岡信『折々のうた』岩波新書

 なるほど、魚が傷まないように日陰を選んで歩くから「戸に沿うて」となるんですね。さすがの観察眼。

折々のうた (岩波新書 黄版 113)

折々のうた (岩波新書 黄版 113)