蜀犬 日に吠ゆ

2011-06-02

[][][][][]夏のうた を読む(その24) 19:40 はてなブックマーク - 夏のうた を読む(その24) - 蜀犬 日に吠ゆ

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 なべて世のはかなきことを悲しとはかかる夢見ぬ人やいいけむ

               建礼門院右京大夫(けんれいもんいんうきょうのだいぶ)


 右京大夫の官名で高倉天皇の中宮建礼門院に仕えた教養豊かな女性。平重盛の次男資盛(すけもり)の愛人だったが、資盛は壇ノ浦で海の藻屑と消えた。知らせを受けて悲嘆にくれた日々の歌が彼女をかくも有名にした。「なべて」はおしなべて。人生おしなべてはかなく無常だ、それが悲しい、など言ってる人は、私が今見ているような悪夢をまだ見たことがないから、「悲し」など気安く言えるのだ、と。

大岡信『折々のうた』岩波新書

 不幸自慢。しかしそれが嫌みでないのが右京大夫のすごさですよね。


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 たすからぬ病と知りしひと夜経てわれよりも妻の十年(ととせ)老いたり

                  上田三四二(うえだみよじ)


 『涌井』(昭五〇)所収。作者は医学を専攻し医師として多年病院に勤めたが、同時に歌人・文芸批評家である。昭和四十一年結腸癌で手術を受け、人生の一大転機となった。「五月二十一日以後」という三十首連作に始まる多くの病中・病後詠は、壮年で癌と知らされた人の驚愕と苦悩、妻子への思いを歌って胸うつ作が多い。病名を告げられた日の翌日の歌。下句に万感の思いがこもっている。

大岡信『折々のうた』岩波新書

 死はだれにも訪れる。その訪れ方は違えど。


折々のうた (岩波新書 黄版 113)

折々のうた (岩波新書 黄版 113)