蜀犬 日に吠ゆ

2011-06-07

[][][][][]夏のうた を読む(その29) 20:24 はてなブックマーク - 夏のうた を読む(その29) - 蜀犬 日に吠ゆ

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 せつせつと眼まで濡らして髪洗ふ

        野沢節子(のざわせつこ)


 『鳳蝶』(昭四五)所収。少女期に脊椎カリエスを病み、二十四年間闘病生活を送った。病床でハイクの魅力にうたれ、俳人への道を一筋に歩んだという。「冬の日や臥して見あぐることの琴の丈」という句もある。掲出句は病癒えたのちの作だが、眼まで濡らして一心に髪を洗う動作のなかで、作者は自分の内部の女人をも「せつせつと」あらっている。官能のうずきの中に、女の夏のひそやかな愉楽もある。

大岡信『折々のうた』岩波新書

 差別を助長する解説だなあ。大岡先生は変な解説がまじる。


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 人言(ひとごと)を繁(しげ)み言痛(ことた)み己(おの)が世にいまだ渡らぬ朝川渡る

                  但馬皇女(たじまのひめみこ)



 『万葉集』巻二総門。天武皇女。異母兄弟の高市皇子の后だったが、同じく異母兄弟の穂積(ほずみ)皇子に熱烈な恋をした。たちまち醜聞がひろまったらしいが、皇女は穂積皇子にひらすら心を寄せた。三首の恋歌が残され、右はその一首。人の噂がうるさいので(「言痛み」)、生まれて以来一度も渡ったことのない夜明けの川をこうして渡って、あなたのもとへ急ぐのです。

大岡信『折々のうた』岩波新書

 

折々のうた (岩波新書 黄版 113)

折々のうた (岩波新書 黄版 113)