2011-06-08
■ [筆記][国文][評論][折々のうた][夏歌]夏のうた を読む(その30) 
59
吹く風に消息(せうそこ)をだにつけばや思へども よしなき野辺に落ちもこそすれ
梁塵秘抄
平安歌謡。「消息」は手紙。「つけばや」はことづけたい。「よしなき」は見当はずれの。風に託してでも恋文を送りたいと思うが、どうせ見当はずれの野っ原に落ちてしまうだろうさ。思いが通じない焦りとあきらめを、風まかせの頼りない手紙という形で自嘲的にうたうが、内容はなんとも粋(いき)なもの。佐藤春夫の『殉情詩集』にはこの歌詞をじかに借用した作もあって彼の愛誦ぶりを示している。
大岡信『折々のうた』岩波新書
照れがある。自分の思いをストレートに表現できないことを、他者のせいにしているわけですから。でもまあ、ありがちといえばありがちな設定ですよね。ラブレターを出すべくポストの前まで行って、誤配されたらイヤだ、とか、電話口であの子のおかあさんに愛を告白したりというネタ。
60
ゆく水にかずかくよりもはかなきはおもはぬ人を思ふなりけり
よみ人しらず
『古今集』巻十一恋歌。川水は流れ去って再び帰らない。その水に一本二本と数をかぞえるための線を引いてみても、すぐ消え去って跡かたもない。そのはかなさによりさらにはかないのは、思ってもくれない相手に恋いこがれることだ。切ない恋の嘆きだが、どこかユーモラスなのは、歌いぶりが自分のおかれた状況を客観視しているからである。ユーモアはそういう心の余裕からしか生まれない。
大岡信『折々のうた』岩波新書
怪物くんに「ノンビラス」というキャラクタがいましたが、「ユウモラス」はまんまだから駄目だったのかなあ。
で、自分の勝手なルール(横断歩道は白だけ踏む、とか)を作っちゃったりするのが私のサガなので川の流れの速さを見極められないだろうか、とじーっと見つめるのも日常茶飯事。そういうのから比べたら、「片思い」のなんとありきたりなことよ。

- 作者: 大岡信
- 出版社/メーカー: 岩波書店
- 発売日: 2003/05/20
- メディア: 新書
- 購入: 3人 クリック: 47回
- この商品を含むブログ (3件) を見る