蜀犬 日に吠ゆ

2011-06-11

[][][][][]夏のうた を読む(その33) 21:21 はてなブックマーク - 夏のうた を読む(その33) - 蜀犬 日に吠ゆ

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 祖母山(そぼさん)も傾山(かたむくさん)も夕立(ゆだち)かな

                     山口青邨(やまぐちせいそん)


 『雑草園』(昭九)所収。虚子門から出た俳壇長老の一人。句は代表作として名高い。祖母山は大分・熊本・宮崎三県の境にどっしりそびえる。傾山はその東側に前山として立ち、やや傾いた形をしている。この二つの山をすっぽり包むようにして降る沛然たる夕立。山の名はいずれも印象的で、音の響きもいい。その二つの名を「ユダチかな」が勢いよく受けとめる。地名をほめる句中の秀逸。

大岡信『折々のうた』岩波新書

 「傾山はその東側に前山として立ち、やや傾いた形をしている。」さっぱり意味が分からない。しかしこういうのって、現地に行くと「なるほど傾いてるわあ~~」という感覚になることも多く、言葉では説明しづらいものです。文字数に限りがあるとよけいに。

 たしかに下五の「夕立かな」が効いていていい。山の情景が浮かび、そこに夕立が降ってくるさままで表現したような展開です。


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 杜子美(としみ) 山谷(さんこく) 李太白(りたいはく)にも 酒を飲むなと詩の候(さふらふ)か

                 隆達小歌


 十六世紀から十七世紀にかけて流行した隆達節の一つ。杜子美、李太白は唐代の詩人杜甫と李白。山谷は宋代の詩人・名筆家黄山谷(黄庭堅)。室町時代愛読され敬慕された中国の大詩人たち。あのえらい詩人さんたちの詩に、酒を飲むなという詩があったっけかね、ありゃしませんよね、という。酒をたたえる歌にもいろいろあるが、これは乙にすまして大きく出たおかしみがミソである。

大岡信『折々のうた』岩波新書

 以前、デカンショ節の話題を書きました。酒を飲むな。山谷は詳しくないので略。李白は完全にアル中ですから酒をほめるに決まっている。杜甫は無職時代に地方の名士の宴会に紛れこんで栄養を摂取し、その宴会に箔を付ける詩をささげて生計を立てていたくらいですから、禁酒断酒をうたうわけはありません。

 しかし中国文明の、食のタブーのなさは世界でも類を見ないように思えます。仏教なんて、伝来当初は話通じなかったのでしょうねえ。「喫菜事魔」なんてのもあって、「ねえ、マニ教徒ってお肉を食べないで野菜ばっかりだそうよ」「げええ、なんて奴等だ、悪魔のようだ」「ほーんと、怖いわよねえ」って感覚ですからねえ。お酒ぐらいで驚いてはいけないと思う。

折々のうた (岩波新書 黄版 113)

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