蜀犬 日に吠ゆ

2011-06-12

[][][][][]夏のうた を読む(その34) 19:26 はてなブックマーク - 夏のうた を読む(その34) - 蜀犬 日に吠ゆ

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 金を得てビルを出でしが四五分(しごふん)の後(のち)するすると飲屋(のみや)に在りつ

                      吉野秀雄(よしのひでお)


 『吉尾秀雄歌集』(昭三三)所収。会津八一に師事し、『万葉集』と良寛に傾倒した。幼時から虚弱、青年期以降六十五歳で死ぬまで、結核、ぜんそく、糖尿病、リューマチなど病気の巣のようだった。定職はほとんどなく、貧しい原稿暮らしだったが、歌は生の真髄に直到すべく率直な詠風に終始し、そこから独特のユーモアも生じた。「原稿が百一枚となる途端我は麦酒(ビール)を喇叭(らっぱ)飲みにす」も有名。

大岡信『折々のうた』岩波新書

 貧乏はイヤだけど、このいきかたはあこがれる。


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 市中(いちなか)は物のにほひや夏の月      凡兆

   あつし\/と門(かど)\/の声       芭蕉


 『芭蕉七部集』中『猿蓑』発句と脇句。凡兆は『猿蓑』時代の蕉門の逸材だった人。湿気の多い日本の夏の都会の夕暮れ。煮物、焼き物などのにおいが流れる中、夏のやや赤みがかったような月が空にかかる。ナ行音がねばりつくような効果を出している。脇句は発句に寄り添いつつ、夕涼みにでた人びとの声の中にア音とカ行音を反復させ、市中の夏の活気を見事にとらえた。

大岡信『折々のうた』岩波新書

 市場から下町長屋への場面転換がうまい。音声までは分かりませんでした。


折々のうた (岩波新書 黄版 113)

折々のうた (岩波新書 黄版 113)