蜀犬 日に吠ゆ

2011-06-13

[][][][][]夏のうた を読む(その35) 21:20 はてなブックマーク - 夏のうた を読む(その35) - 蜀犬 日に吠ゆ

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 夏の女のそりと坂に立っていて肉透(す)けるまで人恋うらしき

                   佐佐木幸綱(ささきゆきつな)


 『群黎(ぐんれい)』(昭四五)所収。佐佐木信綱の孫で、一九六〇年代に歌界に登場した。特に初期の歌は、疾走するラガーのように短歌表現の世界を蹂躙(じゅうりん)せんとする意気ごみを示して、新進世代の先頭走者となった。「のそりと」坂に立つ女が、「肉透けるまで」人を恋うているらしいというこの歌、ふしぎななまめかしさがあるが、そのなまめかしさは女からというより、多分に、作者自身である青年の空想からきているものだろう。

大岡信『折々のうた』岩波新書

 巻末の作者略歴によれば佐佐木幸綱は1938年(昭一三)生まれ。四五年なら満年齢で三二歳でしょ? 「青年の空想」をいうのは無理があり、「オッサンの妄想」のほうがいいように思いますケド。


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 金粉(きんぷん)をこぼして火蛾(かが)やすさまじき

             松本(まつもと)たかし


 『松本たかし句集』(昭一〇)所収。宝生流能役者の家に生まれたが病身でその道を断念し、虚子門に俳人となった。火に慕い寄り、焼かれつつ舞いつつける蛾。「金粉」をこぼして乱舞するsの「すさまじき」姿に、命の不可解な力と美がある。画家速水御舟の名作「炎舞」や、ゲーテ晩年の詩「浄福的な憧れ」が、死して無限の生命を得ようとする火蛾を一方は描き、他方は歌っていたのも思い合わされる。

大岡信『折々のうた』岩波新書

 ケツに火がつかないと本気を出せない、ってことかもしれないけどね?

折々のうた (岩波新書 黄版 113)

折々のうた (岩波新書 黄版 113)