蜀犬 日に吠ゆ

2011-06-14

[][][][][]夏のうた を読む(その36) 21:48 はてなブックマーク - 夏のうた を読む(その36) - 蜀犬 日に吠ゆ

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 瀧の上に水現れて落ちにけり

      後藤夜半(ごとうやはん)


 『翠黛(すいたい)』(昭一五)所収。滝を仰ぎ見る時、滝水はたしかにこの句のような落ち方をする。ただ落ちるのではなく、限りなく「現れて」、限りなく落ちる。大坂の箕面(みのお)自然公園の滝を詠んだという。虚子選の新日本名勝俳句の一つに選ばれ、客観写生句の代表的なものとされた。「上」は「エ」でなく「ウエ」と読まねばならないという。「現れて」で平凡な事象が一回限り成仏した。

大岡信『折々のうた』岩波新書

 字余りとは知らなかった。「タキノエニ」で十分美しい句だろうと思うけど。

 これぞ写生! という句であると思います。だって、そのまんまやん! でも、同じ心象風景を共有できない人には、写生は通用しない気もする。ミレーは分かるけど、モネは分からん。

 あと、「虚子選の新日本名勝俳句」から、強烈な金の臭いを感じた。これが大正期なら、まだわたしも純情だったのに。ホントにこれ、日本の言葉の聖典(カノン)になりうるの?


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 天(あめ)の海に雲の波立ち月の舟星の林に漕(こ)ぎ隠(かく)る見ゆ

                        柿本人麻呂歌集


 『万葉集』巻七雑歌冒頭。広大な天の海。そこに浮かぶ雲は、立つ白波だ。月の舟がそこを渡って、星の林を渡って、星の林に隠れてゆく。『万葉集』にはすぐれた叙景歌が多いが、中での異色作。「星の林」という見立てかたが面白い。原文の万葉仮名は「天海丹 雲之波立 月舟 星之林丹 榜隠所見」。天海を漕ぎ渡る月舟を見ながら、他の星からくるUFOのごとき物体を夢みた古代人もいたかもしれない。

大岡信『折々のうた』岩波新書

 何かの譬喩かと思っていたのですが。SF妄想在りなら、「月面基地が電離層を操作して敵機から所在を隠匿した」って話になりますよね。艦隊が月面に侵攻を始めたのか、超々々々距離砲が月面を狙ったのかは知りませんが。

折々のうた (岩波新書 黄版 113)

折々のうた (岩波新書 黄版 113)