蜀犬 日に吠ゆ

2011-06-15

[][][][][]夏のうた を読む(その37) 22:33 はてなブックマーク - 夏のうた を読む(その37) - 蜀犬 日に吠ゆ

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 鳳仙花(ほうせんか)散りて落つれば小(ち)さき蟹(かに)鋏(はさみ)ささげて驚(おどろ)き走る

                      窪田空穂


 『鏡葉(かがみは)』(大十五)所収。夏の海岸でふと目撃した情景。鳳仙花の赤い小さな花が散り落ちた時、その下にいた小ガニがあわてて逃げた。「鋏ささげて驚き走る」という観察が歌の中心だが、なかんずく「ささげて」の一語がかなめである。小ガニの動作を描写しながら、同時に作者が興じているその気分と理由をも、この語で言いとめている。たとえば「かかげて」では、そうはいかない。

大岡信『折々のうた』岩波新書

 蟹にとって鋏は商売道具ですからね。たとい逃げる時でも大事に運ばねば。

 全然関係ないのですが、鳳仙花の実は熟するとはじけるって、その音を聞いたこと無いなあ。NHK 教育の理科とかで映像を見た記憶もありません。


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 夏深み入江のはちすさきにけり浪にうたひてぐる舟人

             藤原良経(ふじわらのよしつね)


 家集『秋篠月清集』所収。『新古今集』撰者の一人。年若くして太政大臣となった博学多才の貴公子。和歌を藤原俊成・定家父子に学び、彼らの御子左家(みこひだりけ)の有力な支援者だった。後鳥羽天皇の信任厚く、新古今歌壇を隆盛にみちびいたが、三十八歳で急逝した。歌には孤愁の影がある。しかし右の舟人の描き方にもみられるように、生得の澄明感、のびやかさをもった歌人だった。

大岡信『折々のうた』岩波新書

 「入り江の蓮」って、海にも咲くのか、近江あたりの入り江なのでしょうか。


折々のうた (岩波新書 黄版 113)

折々のうた (岩波新書 黄版 113)