蜀犬 日に吠ゆ

2011-06-20

[][][][][]夏のうた を読む(その42) 20:44 はてなブックマーク - 夏のうた を読む(その42) - 蜀犬 日に吠ゆ

83

 ほとんどに面変(おもがは)りしつつわが部隊(ぶたい)屍馬(しば)ありて腐(くさ)れし磧(かはら)も越ゆ

                    宮 柊二(みや しゅうじ)


 『山西省』(昭二四)所収。同歌集は過ぐる大戦時の詩歌界における最高の戦争文学作品集だろう。昭和十四年夏召集、中国の河北省、山西省に兵士として転戦した。「死(しに)すればやすき生命(いのち)と友は言ふわれもしかおもふ兵は安しも」という作があるが、一兵卒としての立場から、戦闘と戦場の日夜をきびしい表現で仮借なく歌った。「ねむりをる体の上を夜の獣(けもの)穢(けが)れてとほれり通らしめつつ」のごとき作もある。

大岡信『折々のうた』岩波新書

 夜の獣は慰安所帰りでしょうね。日本の言論統制には吐き気がする。宮柊二は歌人というよりジャーナリストだと思う。


84

 大臣(おほおみ)が事に携(たづさ)はり茲に至り四月(よつき)がほどに国荒(あ)らびたり

                       尾山篤二郎(おやまとくじろう)

 『とふのすがごも』(昭二一)所収。西行や大伴家持研究で知られた大正・昭和期の歌人。敗戦時の歌だが、ポツダム宣言受諾の詔勅に、茫然としてなす所を知らずに涙するのみだった歌人たちとは違っていた。「曲事(まがごと)の大横しまとかねて知る軍(いくさ)は遂に国を破りつ」。詔勅の内容についても、「吾大君いかがやおぼせ大御身に創(きず)なき事を宣(の)らせまししか」と率直な疑問を歌にしている。

大岡信『折々のうた』岩波新書

折々のうた (岩波新書 黄版 113)

折々のうた (岩波新書 黄版 113)