蜀犬 日に吠ゆ

2011-06-21

[][][][][]夏のうた を読む(その43) 18:51 はてなブックマーク - 夏のうた を読む(その43) - 蜀犬 日に吠ゆ

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 逸(はや)りきてきやき大樹(たいじゅ)にこもるかぜ非命(ひめい)の魂(たま)の万の鈴音(すずおと)

                            山田(やまだ)あき


 『山河無限』(昭五二)所収。この女流詩人はたやすい調べの歌を作らない。八十歳になんなんとして、なお息を詰め胸中の鬱塊を吐きだすていの、きびしい顔つきの歌が多い。近作歌集中の盛夏の歌。さつさつと吹き寄せる風がけやきの大樹にこもる時、その葉ずれのざわめきに、戦火にむなしく散った魂、すなわち「非命の」魂の鳴らすおびただしい鈴音を聴きつけている。歌人坪野哲久夫人。

大岡信『折々のうた』岩波新書

 その戦火での死を「むなしい」「非命の」死にしてしまうのは、後に続く我々世代の不甲斐なさだよなあ。ご先祖さますみません。


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 辛(から)くして我が生き得しは彼等より狡猾(こうかつう)なりし故にあらじか

                    岡野弘彦(おかのひろひこ)


 『冬の家族』(昭四二)所収。釈迢空(折口信夫)の愛弟子だった歌人。右は昭和二十八年の作だが、内容は敗戦直後の内省。学徒兵として軍務に服したが、自分は運良く生還した。だが友人の中には死者も出た。自分自身もかろうじて生き得たには違いなかったが、思えばそれは彼らよりもずる賢かったためではないのか。「神のごと彼等死にきとたはやすく言ふ人にむきて怒り湧きくる」とも歌う。

大岡信『折々のうた』岩波新書

 感動をありがとう的な小咄のネタになるために死んだわけではないですものね。

折々のうた (岩波新書 黄版 113)

折々のうた (岩波新書 黄版 113)