蜀犬 日に吠ゆ

2011-07-11

[][][][]馮夢竜 太田辰夫『平妖伝』大系36 平凡社 を読む(その4) 20:27 はてなブックマーク - 馮夢竜 太田辰夫『平妖伝』大系36 平凡社 を読む(その4) - 蜀犬 日に吠ゆ

第二回 修文院に斗主 獄を断じ/白雲洞に猿神 霧を布(し)く

 玉帝が帰ってくると、禰衡(でいこう)がさっそく告げ口。

第二回

「白雲洞君はひそかに秘書を開き、『如意冊』を盗み、下界してすでに七日になりまする」

馮夢竜 太田辰夫『平妖伝』大系36 平凡社

 禰衡が! もう下界は三国志時代なのかしら! と思って本棚探したのですが、わたしのちくま文庫は散乱しているんです。見つけられませんでした。3巻あたり怪しいのですが

 なので、wikipedia にリンクを張ります。

禰衡 wikipedia

 まあ簡単に言うと、

・それなりに頭いいんだけど、わるくち言う能力に特化している。

・仕事は全然できなくて、アル中。

・天下国家を論じられても、人とまともに話せない。

 ていう三国武将。

 曹操がおもしろがって村長やらせたら全然駄目だったので劉表のところに送ったけど全然無能だったので斬って捨てたのです。


 が、天宮では玉帝にお目通り出来るくらいに有能。あこがれるわ。

 ということで、天宮で働いているうち下界で三国時代は過ぎたらしい。


 袁公は開き直って正直に告白し、この事件はあらかじめ予言の詩にも記されていた出来事であったため減刑がなされました。白雲洞君の号を剥奪されるものの白猿神として白雲洞の土地神になりました。神仙といったとき、神は下っ端ですからねえ。

 ただ、白雲洞に彫り込まれた『如意冊』の文言をどう守るか、という話になり、袁公は天上界の至宝「四母」のうちの一つ「霧母」を授かります。八、九尺の幕のようでいて、一尺あまりもひろげれば十里の霧を生じて土地を隠すことの出来るパオペエ。それって、一尺だけ斬って渡すということは出来なかったのでしょうかね。できなかったのでしょうね。伏線的に。

第二回

「この幕は一尺あまりも展(ひろ)げれば十里の霧を生ずる。全部展げてはなるまいぞ。世の人に迷惑をかけるほどに」

馮夢竜 太田辰夫『平妖伝』大系36 平凡社

 ダチョウ倶楽部もいいとこだ。


 白雲洞にもどった袁公がよくよく『如意冊』の文章を読むと、

第二回

両壁には百八条の変化の法をほりつうけてはありますが、仔細に考究いたしますと、いずれも、日月をとりかえ、人の魂を奪う技で、その中には豆人神馬、鬼刀神剣などさまざまの人を害(あや)める術があります。

「道理で玉帝がまったく秘密にされ、人の世に漏らしてはならぬといわれたわけだ。このような法術は、明らかに金剛禅の外道、自己の心性とはかかわりがない。始めからこうと知っていたら、玉篋など開かなくてもよかったものを」

馮夢竜 太田辰夫『平妖伝』大系36 平凡社

 ですよね。

 そういう意味で、思想・良心の自由を守る立場からすると「人の道を踏み外させる言論」をある程度規制しなければならない立場も分からないではないです。運命とはいえ表現の自由を死守する立場になってしまった袁公は、倫理規定を定めます。フカシでも、責任逃れでも、このぐらい言えなければねえ……

第二回

 ――これは九天の秘法にして上帝の惜しむところなり。もし後人、縁あって之(これ)を得る者は、ただよろしく天に替わりて道を行い、国を保ち民を佑(たす)くべし。毎年臘月(ろうげつ)(十二月)二十五日の夜半、子(ね)の刻には、刀を銜(くわ)え、髪を披(ちら)し、屋に登り脊(みね)に跨りて、誓いを立つべし、「弟子某、道法を修持することここに若干年、並びに過失なし。もし事を生じ民を害さば、雷神これを殛(たお)せ」と。

馮夢竜 太田辰夫『平妖伝』大系36 平凡社

 まあ一応心を入れ替え、石刻文の危険性もわきまえた袁公は、警告文を書き添えて「悪用するなよ! 絶対に悪用するなよ!」という状況を作り出したわけですね。

 ダチョウ倶楽部もいいとこだ。「伏線はこう張れ」という実例かもしれませんが。

 「そして、歴史の歯車は動き始める……」

 ていうのと、

 「石壁の秘術は、静かに時を待つ……」

 てのは、どっちがかっこいいでしょうね。

中国古典文学大系 (36)

中国古典文学大系 (36)