蜀犬 日に吠ゆ

2011-08-03

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 宝永六年(1709)、将軍綱吉公薨去(こうきょ)にともない白石先生忙しくなる。

国家財政についての意見書

 いま重秀*1が申し上げたところでは、幕府の直轄領はあわせて四百万石、年々納められる金がおよそ七十六、七万両あまり(このうち、長崎における運上金(商・工業者などに課した営業税)というものが六万両、酒の運上金というもの六千両、これらは近江守が申しつけて実行したものである)、このうち、夏・冬に賜わる御給金三十万両あまりを除くと、残りは四十六、七万両あまりになる。ところが、去年の国の費用は、去年の国の費用は、およそ金百四十万両におよんでいる。

新井白石 桑原武夫訳『折たく柴の記』中公クラシックス p103-

 歳入から公務員の給料(固定費でしょうな)を差し引いた額の、三倍以上の予算を組んでいる。

 さらに、

  • 内裏の造営
    • 宝永五年三月に宮中炎上。幕府は有馬玄馬頭(げんばのかみ)則維らに助役(すけやく)を命じ御所を造営。
    • 七、八十万両
  • 前将軍綱吉の四十九日の法事、お霊屋(たまや)、将軍の本丸移転費用

 などなどがかかると。

 近江守は、過去に遡って政策を調べ、金銀貨の改鋳を提案。将軍は難色。

国家財政についての意見書

『予(家宣)も、近年、国の財政がふそくしているとは思っていたけれども、これほどまで悪いとは、思いもよらなかった。しかし、金銀貨の改鋳には、予は賛成できない。これ以外のことをよく相談せよ』と言われた。近江守がさらに言うのには、『はじめて金銀貨を改鋳して以来、世間の者が陰でいろいろなことを言うことはあったにしても、もしこの方法によらなければ、十三年のあいだ、なにによって国の費用をまかなうことができたでしょうか。ことに元禄十六年、(一七〇三)の冬のようなこと(大地・大火災)は、この方法によらずに、どうして急場を救うことができたでしょう。だから、まずこの方法でさしあたりの必要をみたし、その後、豊作で、国の財政に余裕ができたときになって、また金銀貨をむかしに戻されることは、きわめてやさしいことでありましょう』と言う。

新井白石 桑原武夫訳『折たく柴の記』中公クラシックス p105-

 上げ潮派。しかし、昭和元禄とかバブル経済のときに構造改革は行われなかったわけで、荻原さんはリフレ政策のその先が楽観的すぎます。

 しかし当時の幕閣はリフレ派に占拠されていたのでした。

国家財政についての意見書

みなの者が言うこともこれと同じで、『天下の変事は予測することができない。いまのままでいくならば、もしこののちに予期しないことが起きた場合、どうしてその変事に対処することができましょう。ただ、近江守の意見に従うに越したことはございません』と言うのである。

新井白石 桑原武夫訳『折たく柴の記』中公クラシックス p106-

 しかし白石先生の薫陶をうけた家宣は冷静。

国家財政についての意見書

 「予がこれに答えて、『近江守の言うところも、道理があるようにみえるが、はじめに金銀貨の改鋳をされるようなことがなかったならば、天地の災害が一時に起こることもなかったかもしれない。もし今後予期しないことが起こったとき、その異変に対処すべき方法がなかったならば、予の時代において、徳川家の血統の絶えるときがきたことになる。(略)』(略)これは天下の大問題である。うまくとりはからうように」と仰せられた。

新井白石 桑原武夫訳『折たく柴の記』中公クラシックス p106-

 平時に自転車操業をしていたら、変事には対応できませんよね。つまりこれは近江守が「財政破綻は国家的危機ですから、緊急金融対策を!」と突っ走ろうとしたのを将軍家宣が「この程度の財政不健全は平常で解決できなければ、大災や大火災に対応できないだろう」と言っているわけで、リフレ派はたしかにおかしい。


 報告を受けた白石先生、さっそく「徳川埋蔵金」を掘り出そうとします。

  • 大阪*2の御金蔵
    • 春に諸国から集めた金は予算外の歳入なのでそれを繰り出せばいいはず。
      • 全部使ってしまったあとです。
  • 神祖((母里の註:東照大権現である家康)の金の大分銅
    • 「行軍守城ノ用、他ノ費(ついえ)トナスコト勿(なか)レ」と刻み込んで子孫に託した金千枚の大分銅
    • 一つではなくたくさんあるはず。
    • もちろん、「それもただ一つ二つ残っているだけで、そのほかはみな、新しい金貨をつくる材料とされたという」
      • 百年すら保たなかったのか。昭和になっても探して掘ってるひといるけど、老中が「もうないよ」って言ってるのに、なにか根拠あって探しているのかなあ。
      • のび太の先祖のお年玉ごっこみたいな話だな。綱吉の元禄バブルって、家康の遺産を食いつぶして成立したのでしょうか。

 白石先生の次の動きは、「事業仕分け」と「国際乱発」ですよ。面白いなあ。

  • 綱吉のお霊屋
    • 綱吉が居間に使っていた部屋を仏間にすることで儀式等を簡略化し、費用をうかす。
  • 財政赤字もろもろ
    • 今年度のまだ執行していない予算を停止して、公共事業を見直す。
      • 次年度以降に払うことを約束して、仕事はさせて金は払わない。
        • 地味にひでえ。ブラック企業の研修期間みたい。
        • つーか、国債増発ってことだろう。結局財政赤字に根本的な解決策は出していない。八代暴れん坊の倹約がまたれるわけですね。

 将軍はことのほかよろこび、白石先生の台頭への第一歩となるのである。

折りたく柴の記 (中公クラシックス)

折りたく柴の記 (中公クラシックス)

*1:母里による註:荻原近江守(おぎわらおうみのかみ)重秀。当時の勘定奉行。

*2:母里の註:大坂じゃないのかなあ……