2011-08-12
あるだけの酒をたべ風を聴き(山頭火)
■ [筆記][国文][評論][折々のうた][秋歌]秋のうた を読む(その5) 
9
萩(はぎ)の花 尾花(をばな) 葛花(くずばな) 瞿麦(なでしこ)の花 女郎花(おみなへし) また 藤袴(ふぢばかま) 朝貌(あさがほ)の花
山上憶良(やまのうえのおくら)
『万葉集』巻八。憶良は人事詠・世相批判の歌にすぐれた作を残すが、時にこういうなつかしい歌も作った。五七七・五七七の旋頭歌形式で秋の七草を詠む。尾花はススキ、朝貌はアサガオ、ムクゲ、キキョウなど諸説がある。春の七草についてはいつからか次の歌があって、知る人も多かろう。「セリ・ナズナ・ゴギョウ・ハコベラ・ホトケノザ・スズナ・スズシロ、春の七草」。
大岡信『折々のうた』岩波新書
10
橋立(はしたて)の倉椅川(くらはしがは)の石走(いはばしり)はも 壮士時(おざかり)にわが渡りてし石走(いはばしり)はも
柿本人麻呂歌集
『万葉集』巻七。旋頭歌形式。言葉の繰り返しに歌謡調が残っている。「橋立の」は倉にかかる枕詞。
「石走」は川瀬を渡るための踏み石。やや老いた男が、倉椅川の瀬の踏み石を踏んで対岸へ急いだ若いさかりの日を思いだし、胸いっぱいになっている。「はも」は強い感動を伝える助詞。歌意は単純なのに心にしみるのは、瀬を渡って急いだのが、たぶん恋ごころでいっぱいの青年だったからだ。
大岡信『折々のうた』岩波新書
壮士時って、青年かなあ。まあ青年でしょうなあ。「はもはも」うるさい。

- 作者: 大岡信
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