蜀犬 日に吠ゆ

2011-08-13

[][][][][]秋のうた を読む(その6) 19:08 はてなブックマーク - 秋のうた を読む(その6) - 蜀犬 日に吠ゆ

 

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 ぽつかりと月のぼる時森の家の寂しき顔(かほ)は戸を閉ざしける

                      佐佐木信綱(ささきのぶつな)


 『新月』(大一)所収。明治・大正・昭和の三代、歌学者、歌人として余人の追随を許さぬ大きな業績をあげた。私たちが『万葉集』はじめ多くの古典詩歌を簡便に読めるのは、この人の恩恵によるところ多大である。この大学者は、その歌から察するに、童心といってもいい若々しくはずむ心をずっと保っていたらしい。右の歌の感傷もその一面にほかならぬ。現代超現実派の絵にもありそうな風景。

大岡信『折々のうた』岩波新書

 シュールレアリスムでいいのに、なぜに現代超現実派。国文学者の意地なのか、それともこのころ(1979,S54)ころはこう読んでいたのでしょうかね。


12

 うつくしき果実(くわじつ)の肉の中(うち)には、明け行く大空の色こそ含まれたれ

                   永井荷風(ながいかふう)訳、ノワイユ夫人


 荷風訳詩集『珊瑚集』(大二)所収「九月の果樹園」より。作者ノワイユ伯爵夫人はルーマニア貴族の血をひくパリ生れの女流詩人。一九三三年、五十七歳で死去。自然と愛と死を豊かな詩想と表現で情熱的に歌った。『珊瑚集』は近代名訳詩集の一つとして名高く、ボードレール、ヴェルレーヌ、レニエらの作が知られるが、ノワイユ詩三編はそれに勝るとも劣らぬ荷風会心の訳詞である。

大岡信『折々のうた』岩波新書

 荷風散人がノリノリで訳しそうですものね。

 ところでこの果実、一体何でしょう。明け行く大空というのは「朝焼け」の色でしょうからオレンジか、もう少し朱に近い感じで、19-20世紀初頭の貴族が題材にするもの。みかんかなあ。ザクロかなあ。

折々のうた (岩波新書 黄版 113)

折々のうた (岩波新書 黄版 113)