蜀犬 日に吠ゆ

2011-08-16

[][][][][]秋のうた を読む(その9) 22:09 はてなブックマーク - 秋のうた を読む(その9) - 蜀犬 日に吠ゆ

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 さむくなりぬいまは螢も光なしこ金(がね)の水をたれかたまはむ

                        螢(ほたる)(良寛(りょうかん))


 日本古典文学大系『近世和歌集』所収。「ほたる」とは越後国与板(よいた)の山田屋女中およしが、仲良しの良寛さんにつけたあだ名。与板は良寛の生地出雲崎の近郊で、彼の父の出身地でもあった。右はおよし宛書簡に見える歌。酒の無心の歌である。寒くなったね、およしさ。私は螢の身ゆえもう光ることもできないよ。水の好きな螢に、どなたか黄金の水〈酒)をめぐんでくれる方はいないものかね。

大岡信『折々のうた』岩波新書

 ビールとか日本酒で、「金(かね)くさい」というのはけなし言葉ですが、黄金水といえば日本酒の雅語ですかそうですか。淡麗辛口の対極に芳醇甘口があるとは思いますが、あの濃厚な日本酒をガラスに注いだ時、黄金とは感じないよねえ。

 「ほう、黄色いんですね」「ダメダメこれは黄色じゃない」「金色」


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 十四日、オ昼スギヨリ、歌ヲヨミニ、ワタクシ内ヘ、オイデクダサレ

                        正岡子規

 『子規全集』中「『竹乃里歌』拾遺」所収。門人岡麓(おかふもと)宛明治三十二年三月十三日付ハガキ。子規には同種の消息歌が多い。前出の良寛の歌といいこの歌といい、歌が古来、人と心を通わすための実用の具だったという大事なことを思い出させるものだ。歌にこもる親しい気息とユーモアは、気取りや気張りのために孤独におちいる弊のある現代の歌に掛けているものをも教えてくれる。

大岡信『折々のうた』岩波新書

 「秋の歌」なのに「三月十三日」。これだからもう……。良寛さんの書簡をみて唐突に思い出しちゃったのでしょうねえ。


 それと、門人の筆名「岡麓」っておもしろいですね。いったいどっちにいるんだ。

折々のうた (岩波新書 黄版 113)

折々のうた (岩波新書 黄版 113)