蜀犬 日に吠ゆ

2011-08-19

 うつむいて石ころばかり (山頭火)


[][][][][]秋のうた を読む(その12) 19:00 はてなブックマーク - 秋のうた を読む(その12) - 蜀犬 日に吠ゆ

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 月夜つづき向きあふ坂の相(あひ)睦(むつ)む

              大野林火(おおのりんか)


 『白幡南町』(昭和三三)所収。昭和十年代、叙情性豊かな句で登場、俳論にもすぐれた業績をあげる。「ねむりても旅の花火の胸にひらく」のよく知られた句があるが、右も、外界の風物がごく自然に生命を波うたせ、心の内景そのものに転じてゆくところが共通している。いい月夜が何日も続いたあと、向かい合わせの二つの坂が、斜面を息づかせて親しみ合っている。そのあやしい生命のときめき。

大岡信『折々のうた』岩波新書

 こういう体言止めの批評の時の大岡先生はたいてい胡散臭いと分かりました。坂が本当に生命をもっているわけがないのですから両側の坂から一組の生命体がであうのに違いありません。


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 やはらかに人分けゆくや勝角力(かちずまふ)

             高井几董(たかいきとう)


 江戸中期の俳人。与謝蕪村の忠実な高弟で、寛政元年四十九歳で没した。温厚な人だったそうで、句風も平らかだが、さすがに師に学んで印象鮮明な句を作る。ひたと対象に寄りそって、その暖かみや厚みを句にほどよくすくい取ってくる。この句、「やはらかに」が命。江戸時代の力士を描くが、今日でもこの気分はそのまま通じるところがあろう。勝った時の力士は、なるほどやわらかに人を分けて消える。

大岡信『折々のうた』岩波新書

 テレビで見る国技館の大相撲だとそういう情緒とは無縁ですよね。警備員の配置されたコンクリートの通路を多くの付人を従えて立ち去るわけです。

折々のうた (岩波新書 黄版 113)

折々のうた (岩波新書 黄版 113)