蜀犬 日に吠ゆ

2011-08-21

[][][][][]秋のうた を読む(その1420:10 はてなブックマーク - 秋のうた を読む(その14) - 蜀犬 日に吠ゆ

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 やはらかに柳(やなぎ)あをめる/北上(きたかみ)の岸辺目に見ゆ/泣けとごとくに

                           石川啄木(いしかわたくぼく)


 『一握の砂』(明四三)所収。幼少年期を送った故郷岩手県渋民村への愛と憎とは、北海道の流浪生活を経て東京へ出た啄木の中でますます強まっていた。啄木は生活苦と病苦に追われ、小説家たらんとする希望もむざんにうちくだかれ、かつて石もて追われるごとくに逃亡した故郷をさえ、しみじみ恋しく思う日も多かった。『一握の砂』には、東京の借家にあって泉のように噴きあがってきた望郷の歌が、たくさん収められている。

大岡信『折々のうた』岩波新書

 いいから奥さんに仕送りをするんだ。精養軒でパンの会なぞ参加している場合でないぞ。

 とかいいつつ、啄木の望郷の歌はよいものがおおいですね。


28

 マッチ擦るつかのま海に霧ふかし身捨つるほどの祖国はありや

                    寺山修司(てらやましゅうじ)


 『空には本』(昭三三)所収。高校時代俳句を作り、また短歌を作った。大学在学中に短歌研究新人賞を受け、才華ある十代の新人として一躍注目を浴びた。右も当時の作。この深い霧には、作者の故郷青森の海の思い出が感じられるが、「ふるさとの訛りなくせし友といてモカ珈琲はかくまでにがし」と歌う彼は、同時に、右の歌にうかがわれるように、故郷や祖国にべったりつくような執着を振り捨てて生きていこうと決意した青年として歌っている。

大岡信『折々のうた』岩波新書

 あんまり寺山修司はぴんと来なかったのですが、こういう境遇になると理解できるようになっているかな。

折々のうた (岩波新書 黄版 113)

折々のうた (岩波新書 黄版 113)