蜀犬 日に吠ゆ

2011-08-30

 なかなか死ねない彼岸花さく(山頭火)


[][][][][]秋のうた を読む(その23) 19:31 はてなブックマーク - 秋のうた を読む(その23) - 蜀犬 日に吠ゆ

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 夢のなかといへども髪をふりみだし人を追ひゐきながく忘れず

                  大西民子(おおにしたみこ)


 『不文の掟』(昭三五)所収。この現代女流歌人は、不運な結婚生活に基く苦しみ、悲しみを多くの歌でうたってきた。拾遺の反対を押しきって結婚した相手が、他の女性へと走ったのである。後に離婚したが、長く堪えつづけた女の念々は、作者生得のものと思われる強い理性で覆われつつも、時にせきを切って溢れた。昼は心の痛みを押さえて暮らしていても、夢は容赦しない。それゆえに、醒めてからの悲しみは一層深い。

大岡信『折々のうた』岩波新書

 「夢は容赦しない」って凄惨ですね。中島敦「幸福」みたいだ。

 生きとし生けるものが幸せでありますように。(慈悲の瞑想


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 しずめかねし瞋(いか)りを祀(まつ)る斎庭(ゆにわ)あらばゆきて撫でんか獅子のたてがみ

                            馬場(ばば)あき子(こ)


 『飛花抄』(昭四七)所収。「瞋り」は目をかっと開いていかるさま。「斎庭」は神を祭るために斎(い)み浄めた場所。「しずめかねし瞋り」がどんな性質のものか、作者は説明しない。いずれにせよ単純に解消するようなものではなかったのだろう。そういういかりで身の置き所もない日の、これは祈りの歌である。しかしまた、「ゆきて撫でんか獅子のたてがみ」という表現に、女性的なるものが溢れているのを見落すこともできない。

大岡信『折々のうた』岩波新書

 ふつう怒りって「しずめかねし」ものでしょう。しずめられないから怒りとして心頭に発してしまうわけでしょう。そのいかりを神聖なものにすら高めてしまうような神社、そんなものがあれば、ほんとうにいいでしょうね。獅子は「狛犬」かしらん。

折々のうた (岩波新書 黄版 113)

折々のうた (岩波新書 黄版 113)

中島敦 (ちくま日本文学 12)

中島敦 (ちくま日本文学 12)