蜀犬 日に吠ゆ

2011-09-04

 風の中声はりあげて南無観世音(山頭火)


[筆記][国文][評論][折々のうた][秋歌]秋のうた を読む(その28)

55

 蟻(あり)台上に餓(う)えて月高し

             横光利一(よこみつりいち)


 随筆・詩・評論集『書方草紙』(昭四六)。横光は大正末年新感覚派文学運動の先頭に立ち、昭和初年代を通じてたえず強い関心をもたれた作家だが、詩や俳句も作った。右は「蟻」と題する一行詩。荒涼たる原野あるいは広場に立つ高楼が想像される。中天高く澄む月にむかって凝然とうずくまっている蟻。その「餓え」には、あるはげしい意志が感じられる。この蟻は孤独な人間でもあるだろう。

大岡信『折々のうた』岩波新書

 一行詩かあ。どうも音の数が合わないと思った。

 相変わらず大きな自然の中のちっぽけな存在が好きですね。


56

 人も 馬も 道ゆきつかれ死にゝけり。 旅寝かさなるほどのかそけさ

                    釈 迢空


 『海やまのあいだ』(大一四)所収。釈迢空折口信夫は、民俗資料採集のためしばしば山間離島を旅した。いたる所の山中や峠で、行き倒れの人や馬をまつった供養塔を見た。右は大正十二年作「供養塔」五首の第一首。横死の人馬をいたむ調べの中に、すべての生きとし生けるものの、また旅寝を重ねる自分自身の、いわばよりどころなくさまよう魂への、鎮魂の調べも、おのずとひびいていた。

大岡信『折々のうた』岩波新書

 そしてかそけく消えてゆく未来。

折々のうた (岩波新書 黄版 113)

折々のうた (岩波新書 黄版 113)