蜀犬 日に吠ゆ

2011-09-10

[][][][][]秋のうた を読む(その34) 20:24 はてなブックマーク - 秋のうた を読む(その34) - 蜀犬 日に吠ゆ

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 蒼苔(さうたい) 路(みち)滑(なめ)らかにして 僧(そう) 寺(てら)に帰る

 紅葉(こうえふ) 声(こえ)乾(かわ)いて 鹿(しか) 林(はやし)に在(あ)り

                              温庭筠(おんていいん)


 平安中期の『和漢朗詠集』巻上「鹿」。作者は晩唐の詩人。青々と苔の生えた路はしっとりと柔らかく、一僧これを踏んで寺に帰る。林には乾いた音をたてる紅葉を踏んで、鹿が遊ぶ。閑雅な秋景。くだって江戸前期の『芭蕉七部集』中『猿蓑』の「夏の月」の巻には「茴香(ういきょう)の実を吹落す夕嵐 去来」「僧ややさむく寺へかへるか 凡兆」という付け合いがあるが、凡兆あるいはこの詩句にヒントを得たか。

大岡信『折々のうた』岩波新書

 「俤」ですね。


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 此秋(このあき)は何(なん)で年よる雲に鳥

                 松尾芭蕉


 芭蕉は元禄七年十月十二日(今の十一月十九日頃)旅先の大坂で下痢に端を発した病のため死んだ。寝込む直前の九月二十六日の作。急激な衰えと老いの自覚がこの句の背景にある。下五の「雲に鳥」の表現を得るため朝から苦心さんたんしたらしい。今年の秋はどうしてこんなに老いがしみるのか。という直情の嘆きを、雲に消えゆく鳥の姿が音もなく吸いとり、漂泊者の魂は空に舞う。

大岡信『折々のうた』岩波新書

 鳥は死、魚は命。

折々のうた (岩波新書 黄版 113)

折々のうた (岩波新書 黄版 113)