蜀犬 日に吠ゆ

2011-09-11

[][][][][]秋のうた を読む(その35) 19:50 はてなブックマーク - 秋のうた を読む(その35) - 蜀犬 日に吠ゆ

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 彼一語我一語秋深みかも

        高浜虚子


 『六百五十句』(昭三〇)所収。「深み」の「み」は形容詞の語感についてこれを名詞化する接尾語で、「秋深み」は秋の深まった状態。「かも」が一層それを強調する。秋深しの思いを言うのに、虚子は二人の人物を天地の間にぽつんと置いた。相手がぽつりと一語を発し、こちらもぽつりと一語を返す。時は流れるともなく流れ、二人の男も、その言葉も、深い秋に染まっている。俳句の省略語法の粋というべき句だろう。

大岡信『折々のうた』岩波新書

 シュールというよりは観念的か。言葉は、いらないのですよね。必要があって仕方ないから多言を弄するのであって。


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 道(い)ふを休(や)めよ 他郷 苦辛(くしん)多しと

 同袍(どうはう) 友あり 自(おのづか)ら相親(あひした)しむ   広瀬淡窓(ひろせたんそう)


 幕末の儒者詩人。豊後(ぶんご)(大分県)日田に塾舎「桂林荘」を開く。のちに「咸宜園(かんぎえん)」と改称。門人は前後四千人を数え、高野長英、大村益次郎らが排出した。七言絶句「桂林荘雑詠、諸生に示す」の前半で、塾生によびかけたもの。他郷の遊学はつらいと泣きごとを言うな諸君。同じ一枚の袍(綿入れの上着)を貸し合うほどの親友でも、おのずと親しみ合っているではないか、と。

大岡信『折々のうた』岩波新書

 志が同じなら助け合えるのですが、同床異夢の現実。


折々のうた (岩波新書 黄版 113)

折々のうた (岩波新書 黄版 113)