蜀犬 日に吠ゆ

2011-09-12十五夜

[][][][][]秋のうた を読む(その36) 19:55 はてなブックマーク - 秋のうた を読む(その36) - 蜀犬 日に吠ゆ

71

 木がらしや目刺(めざし)にのこる海のいろ

          芥川龍之介(あくたがわりゅうのすけ)


 『澄江堂句集』(昭二)所収。大正十一年の友人あて書簡に「長崎より目刺をおくり来れる人に」と前書きつきで引いているが、句は大正六年作とされている。贈物への返礼の気持を汲んで読めば、「目刺にのこる海のいろ」も一層心にしみるが、前書きなしでも句の繊細な情感は的確に伝わる。芥川は早くから句作に親しんだが、ある時期以後芭蕉やその弟子凡兆、丈草らを愛読し、その作もおのずと古調を帯び、端正な中に哀愁が漂う佳句が多い。

大岡信『折々のうた』岩波新書

 芥川の俳句・川柳って、手軽に読めないかしらん。


72

 かきなぐる墨絵をかしく秋暮(くれ)て    史邦(しほう)

  はきごころよきめりやすの足袋(たび)   凡兆


 『芭蕉七部集』中『猿蓑』の「はつしぐれの巻」所収。前句の「墨絵」は十五世紀なかば宋元画が流入して興った水墨画で、禅宗とも深くかかわる。中国伝来という意味で異国風な新鮮さがあった。一方、付け句の「メリヤス」は長崎などを通じて入ってきた紅毛人の品物である。すなわち二様の異国情緒を取り合わせ、両句相まって、晩秋ひとり心ゆくままに墨絵に没頭して楽しむ人物を描きだした。風雅を解する豪商か、それとも脱俗の隠士か。

大岡信『折々のうた』岩波新書

 かきなぐるのか。貴重品である紙を無駄にできるのだから金持ちなのでしょうね。

折々のうた (岩波新書 黄版 113)

折々のうた (岩波新書 黄版 113)