蜀犬 日に吠ゆ

2011-09-14

[][][][][]秋のうた を読む(その38) 19:30 はてなブックマーク - 秋のうた を読む(その38) - 蜀犬 日に吠ゆ

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 秋風にこゑをほにあげてくる舟はあまのとわたる雁(かり)にぞありける

                       藤原菅根(ふじわらのすがね)


 『古今集』秋歌上。平安中期の学者官人。南下してきた雁を、天上の海をこぎ渡る舟にたとえている。「ほ」はここでは雁の声が高く秀(ひ)いでて目立つ意の「秀(ほ)」だが、同じ音のつながりで「帆」に通じる。さらにその縁で「舟」が導き出された。「あまのと(天の門)」の「門」は、水が陸地にはさまれる瀬戸(せと)や水門(みなと)(港)のト。雁の鳴き声がまた櫓(ろ)声を連想させる。こうして雁の渡る空は、言葉の想像世界で、海に変容するのだ。

大岡信『折々のうた』岩波新書

 技巧を凝らしたことは分かるんですが、「五・八・五・七・八」と字余りが二カ所もあるので読みづらいです。「こゑをほにあげ」でいいようにも思いますが、平安時代だと「て」は省略できないのでしょうか。


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 大江山かたぶく月の影さえて鳥羽田の面に落つるかりがね

            前大僧正慈円(さきのだいそうじょうじえん)


 『新古今集』秋歌下。政変のため四度にわたって天台座主(ざす)の辞退と復任をくりかえした人。関白藤原忠通の六男。『新古今』入集九十二首は西行につぐ。落雁の歌だが、落雁はふつう地におりた雁を歌う例が多いのに対し、これは空から降下しつつある雁を歌う。京の西方大江山に冴え渡る月に、南方鳥羽田の野に落ちる雁を配する。暮秋の情を、歌によって一幅のさびさびとした絵に描いたともいえよう。史家として『愚管抄』六巻をあらわした人。

大岡信『折々のうた』岩波新書

 なかなかに雄大な構図であり、動きを取り入れたダイナミックな歌ですねえ。大江山と鳥羽田では、今の京都府の南北がほとんど視野に入ってしまうわけですね。いかに天台山からとはいえ、実際に見えたとは思いにくいので、新古今にありがちな、ムードを出すためことさらに歌枕を詠みこむテクニックですね。

 慈円といえば『百人一首』「おほけなく憂き世の民に おほふかな わが立つ杣に墨染めの袖」というセカイ系の歌が採られていますね。大きな視点で世の中を見ていたんだなあ、と分かります。

折々のうた (岩波新書 黄版 113)

折々のうた (岩波新書 黄版 113)