蜀犬 日に吠ゆ

2011-11-08立冬

[][][][][]冬のうた を読む(その1) 13:14 はてなブックマーク - 冬のうた を読む(その1) - 蜀犬 日に吠ゆ

 立冬になりましたので、冬の歌をながめてゆきます。

1

 神無月(かみなづき)降りみ降らずみ定めなき時雨(しぐれ)ぞ冬のはじめなりける

                          よみ人しらず


 『後撰集』巻八冬歌。神無月は旧暦十月。現在の暦の十一月半ばごろからにあたる。時雨は秋から冬にかけて降る通り雨だが、『万葉集』では秋季のものとされた。それが『古今集』になると、冬の最初の歌が「しぐれ」の歌という配列になる。以来和歌や俳諧では時雨は初冬の景物となった。奈良から京都へ、微妙な季節の変化があったのかもしれない。右の歌は平安朝以降のその通念にお墨つきを与えた形の歌である。

大岡信『折々のうた』岩波新書

 「降りみ降らずみ」は「降ったり降らなかったり」。時雨と言えば山頭火。放浪は中国や九州であったにしても、冬の始まりには格別の感慨があったことでしょうね。



2

 時雨(しぐれ)そめ黒木(くろき)になるは何(なに)々ぞ

                     椎本才麿(しいもとさいまろ)


 大和(奈良県)に生まれ貞門・談林の俳風に学んだ江戸初期俳人。江戸に出て松尾芭蕉その他気鋭の俳人とも競ったが、のち大坂に定住した。「黒木」とは、生木を一尺ほどに切り、燃えやすいようにかまどで黒く蒸してたき木にしたもの。京の八瀬・大原の黒木を頭にのせて売り歩いたのが大原女である。初時雨にしっとり濡れる雑木林の景色から、黒木が軒下につまれるようになる冬の到来を思いえがいた、初冬の京情緒の句。

大岡信『折々のうた』岩波新書

 江戸時代なら乾燥させただけの薪と炭の使い分けができているはずですが、炭より黒木のほうが安いのかしらん。それとも京情緒で懐古しているていなのでしょうか。

折々のうた (岩波新書 黄版 113)

折々のうた (岩波新書 黄版 113)