蜀犬 日に吠ゆ

2011-11-11

[][][][][]冬のうた を読む(その4) 18:39 はてなブックマーク - 冬のうた を読む(その4) - 蜀犬 日に吠ゆ

7

 むかしおぼえはなかりけむ人の親

    こひに容赦(ようしゃ)はなきことや   佐藤春夫


 『春夫詩鈔』(昭一一)所収。題を「一節(ひとよ)ぎり」という二行詩。一節切(ひとよぎり)は尺八の一種で、中央に竹の節が一つある。これに合わせる小唄が「一節切ぶし」で江戸時代に流行した。佐藤春夫は好んで歌謡調の詩を作ったが、わざと古調をとる所に、むしろ彼のしゃれ気の現れがあった。小唄調にのせて、たぶん相手側の親が強硬に反対している恋に悩む青年の嘆きを歌う。さやかしご自分は恋したおぼえもないのでしょうね、ごりっぱなことですと。

大岡信『折々のうた』岩波新書

 そして親の立場になれば反対する側に回る。以下繰り返し。


8

 一枚の落ち葉となりて昏睡す

        野見山朱鳥(のみやまあすか)


 『野見山朱鳥全句集』(昭四六)所収。虚子門に学び、昭和四五年五三歳で没。青年期から肺患で久しく療養したが、俳誌を主宰、画家としても一家をなした。画家らしく句は色感に富み、ややあくの強い心象表現が特色だが、晩年、心境の澄みが句に深みをもたらした。右は最晩年の作。病臥の身を一枚の落葉と見ているが、「昏睡す」が「落葉」のイメジと響き合って、言い知れぬ寂寥を生む。なお「朱鳥」の号をアスカと自ら呼んだのは異例の読み方。

大岡信『折々のうた』岩波新書

 飛鳥をアスカと呼ぶのも、「飛ぶ鳥の明日香」という枕詞からの転用で、なにかアスカという鳥がいるわけではないですからねえ。

折々のうた (岩波新書 黄版 113)

折々のうた (岩波新書 黄版 113)