蜀犬 日に吠ゆ

2011-11-13

[][][][][]冬のうた を読む(その6) 20:19 はてなブックマーク - 冬のうた を読む(その6) - 蜀犬 日に吠ゆ

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 竹馬やいろはにほへとちり\゛/に

           久保田万太郎


 『道芝』(昭二)所収。竹馬はかつて子供のときに冬の遊びだった。幼な友達を竹馬(ちくば)の友というのもここから出ているが、長ずれば皆散ってゆくのが人の世のさだめだ。「いろはにほへと」を一緒に習った仲間が、「色はにほへど散りぬる」さまに散ってゆく。まるで「いろは」四十八文字の散らばりのように。久保田万太郎は浅草に生まれ育った作家だが、下町少年の感傷はまた万人の感傷でもあろう。

大岡信『折々のうた』岩波新書


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 はかなくて木にも草にもいはれぬは心の底の思ひなりけり

                香川景樹(かがわかげき)


 歌集『桂園一枝』所収。江戸後期の歌人・歌学者。禅を学び、内省的な歌に独特の深みを持つ秀歌が多い。右の歌、わが心底の思いはまことにはかなくて、木草にさえ告げることもできないほどだ、というのが表面の意味だが、作者はむしろそう言うことによって、口に出してしまえばいかにもありふれて見える「心の底の思ひ」の、いとおしさ、かけがえのなさを語っていると感じられる。さりげなく人心の機微にふれたいい歌である。体験の深さによる。

大岡信『折々のうた』岩波新書

 言葉に出さずに抱き続ける感情は、人の心をゆっくりと傷つける。

折々のうた (岩波新書 黄版 113)

折々のうた (岩波新書 黄版 113)