2011-11-13
■ [筆記][国文][評論][折々のうた][冬歌]冬のうた を読む(その6) 
11
竹馬やいろはにほへとちり\゛/に
久保田万太郎
『道芝』(昭二)所収。竹馬はかつて子供のときに冬の遊びだった。幼な友達を竹馬(ちくば)の友というのもここから出ているが、長ずれば皆散ってゆくのが人の世のさだめだ。「いろはにほへと」を一緒に習った仲間が、「色はにほへど散りぬる」さまに散ってゆく。まるで「いろは」四十八文字の散らばりのように。久保田万太郎は浅草に生まれ育った作家だが、下町少年の感傷はまた万人の感傷でもあろう。
大岡信『折々のうた』岩波新書
12
はかなくて木にも草にもいはれぬは心の底の思ひなりけり
香川景樹(かがわかげき)
歌集『桂園一枝』所収。江戸後期の歌人・歌学者。禅を学び、内省的な歌に独特の深みを持つ秀歌が多い。右の歌、わが心底の思いはまことにはかなくて、木草にさえ告げることもできないほどだ、というのが表面の意味だが、作者はむしろそう言うことによって、口に出してしまえばいかにもありふれて見える「心の底の思ひ」の、いとおしさ、かけがえのなさを語っていると感じられる。さりげなく人心の機微にふれたいい歌である。体験の深さによる。
大岡信『折々のうた』岩波新書
言葉に出さずに抱き続ける感情は、人の心をゆっくりと傷つける。

- 作者: 大岡信
- 出版社/メーカー: 岩波書店
- 発売日: 2003/05/20
- メディア: 新書
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