蜀犬 日に吠ゆ

2011-11-18

[][][][][]冬のうた を読む(その11) 18:31 はてなブックマーク - 冬のうた を読む(その11) - 蜀犬 日に吠ゆ

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 おのが灰おのれ被(かぶ)りて消えてゆく木炭の火にたぐへて思ふ

                      太田水穂(おおたみずほ)


 『老蘇の森』(昭三〇)所収。水穂は島木赤彦や窪田空穂と同じく信州出身の歌人で同世代。和歌史、俳諧史の研究にも多くの業績がある。右は最晩年の作。炭火はあかあかと燃え、しだいに表面からふうわりと柔らかい灰に変わってゆく。自らを、白い灰をかぶりつつ静かに消えてゆく炭の命にたぐえて、自分の生涯のはての日を思いやっているが、決して単にひえびえとした寂寥を歌っているのではない。作者の死生観だけでなく、芸術観を示す歌でもあろう。

大岡信『折々のうた』岩波新書

 冬の夜の情景にぴったり。それでも静かに燃えているぞ、と思っているわけですね。



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 冬蜂(ふゆばち)の死にどころなく歩きけり

              村上鬼城(むらかみきじょう)


 『鬼城句集』(大六)所収。三十年にわたり高崎裁判所の代書人だったが、極度の難聴に加え十人の子をかかえた生活は貧窮をきわめた。五十二歳の大正六年に、『鬼城句集』が出るに及んで俳名一時にあがり、生活もようやく安定した。子規、ついで虚子に師事したが、慶應元年生まれで二人より年長、句は旧派俳諧からも栄養をとりつつ、境涯吟に独歩した。初冬、生き残りの蜂を見て得た感を、突き放ちつつ痛切に詠んだ代表作。

大岡信『折々のうた』岩波新書

折々のうた (岩波新書 黄版 113)

折々のうた (岩波新書 黄版 113)