蜀犬 日に吠ゆ

2011-11-19

[][][][][]冬のうた を読む(その12) 20:03 はてなブックマーク - 冬のうた を読む(その12) - 蜀犬 日に吠ゆ

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 名残(なごり)おしさに いでゝ見れば山中(さんちう)に 笠(かさ)のとがりばかりが ほのかに見え候(そろ)

                         閑吟集


 後朝(きぬぎぬ)に女が詠んだという体裁の室町歌謡。女は遊女かもしれない。まだ明けきらぬうちに、男が去ってゆく。次はいつまた会えることやら分からない。なごりは尽きぬ。せめて後ろすがただけでも、と外へ出てみれば、木草がうっそうと茂っている山中に、男のかぶる笠の先だけが、見え隠れしながら、何やら夢の続きのように、ほのかに消えてゆく。「笠のとがり」だけを言う所が心憎い。中世、近世の歌謡の言葉づかいには、こういう省略の強みのあるものが多い。

大岡信『折々のうた』岩波新書

 むしろ初夏を思った。初冬の乾燥気候なら、笠かぶらなくてもいいでしょう。まあしきたりというか習慣としてかぶるのかもしれませんけれども。



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 ともかくもいはばなべてになりぬべし音(ね)に泣きてこそみせまほしけれ

                       和泉式部


 『千載集』恋五。家集『和泉式部集』によると、恋人からの手紙への変化である。和泉が嘆きに沈んでいるという噂をきいて、自分が原因なのかも知らぬげに、「どうしました」と男がきいてきたのだ。「なべて」はすべて。また、普通、なみ。ここでは後者の意だろう。今の私の思いを言葉にしてしまえばありふれた言葉にしかなりません。ただあなたに逢って、声はりあげて泣いてみせたいばかりです、と。しかし前者の意をも含んでいそうな語調の強さがある。

大岡信『折々のうた』岩波新書

 前者だったら弱いでしょう。感情的には強いのでしょうけれど。

折々のうた (岩波新書 黄版 113)

折々のうた (岩波新書 黄版 113)