蜀犬 日に吠ゆ

2011-11-22

[][][][][]冬のうた を読む(その15) 22:41 はてなブックマーク - 冬のうた を読む(その15) - 蜀犬 日に吠ゆ

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 吏(り)の田を撿(けん)しに来(きた)れば 連日(れんじつ) 里正(りせい)が宅に 珍羞(ちんしう)は厨(くりや)に満ちて堆(うづうたか)し

                   菅 茶山


 『黄葉夕陽村舎詩』所収。江戸後期の代表的漢詩人。「備中(びつちう)の途上に路人(ろじん)の話を記す」と題する五言絶句のうち、起部を略して引いた。備中の街道筋で道ゆく村人が興奮しながら話し合っているのをそのまま書き留めた詩。「お役人が稲の出来具合を検査に来ているだろが。されば庄屋さんのお宅では、連日珍味を台所せましと積みあげてご接待じゃ」。昔も今も変わらぬものに供応、まいないの生態がある。

大岡信『折々のうた』岩波新書

 「備中の街道筋で道ゆく村人が興奮しながら話し合っているのをそのまま書き留めた詩。」ンナワケネーダロ。

 文壇のタカリも相当なものだと聞いて折るところなのですが、本当なのですかね。そういうところから言及してもよろしいのではないでしょうか、大岡先生。


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 奥白根(おくしらね)かの世の雪をかゞやかす

                   前田普羅


 『定本普羅句集』(昭四七)所収。大正期虚子門四天王の一人。友人飯田蛇笏と共に男性的な山岳詠に秀吟を多く残した。昭和十二年発表の「甲斐の山々」連作五句は特に有名で、右はその結びの一句。同時作の一つに「駒ヶ獄凍(い)てゝ巌(いわお)を落しけり」もある。雪におおわれた奥白根を遠望して、峻厳かつ浄らかな山の霊気をみごとに言いとめている。「かの世の雪」という表現が絶妙。

大岡信『折々のうた』岩波新書

 たしかに山は別世界ですからねえ。「かの世」とか言いたくなる気もちは分かります。



折々のうた (岩波新書 黄版 113)

折々のうた (岩波新書 黄版 113)