蜀犬 日に吠ゆ

2012-01-05

[][]益々かしこく 20:19 はてなブックマーク - 益々かしこく - 蜀犬 日に吠ゆ

 高橋源一郎「(こんな作家でも)いきていてもいいですか」『文学なんかこわくない』朝日文庫 より、実篤ウィルスの実態。

文学なんかこわくない (朝日文庫)

文学なんかこわくない (朝日文庫)

 実篤ウィルスとは、タカハシさんが研究しているウィルスで、

3 「実篤ウィルス」の他の特徴

「実篤ウィルス」にかかると、

① 成長がとまる

② 自分がどのジャンルに属しているか気にしなくなる

③ 自分がなんなのか気にならなくなる

④ 性善説になる。

 とまあ、こういう具合に特徴を書き出すことができる。でも、この特徴はそれぞれ関連がある。③の、「自分がなんなのか気にならなくなる」はパート2で指摘した「僕」=その他いろいろ症候群である。早い話が、「僕」=「全世界」なのだ。

 「僕」=「全世界」なら、自分がどのジャンルに属しているか気にする必要なんかあるわけがない。「僕」=「詩」=「小説」=「エッセイ」=……なんだから。それから、「全世界」が成長したりするわけもない。

高橋源一郎「(こんな作家でも)いきていてもいいですか」

 云々。


 文学探偵タカハシさんが図書館で武者小路実篤の全集をひもときます。

2 「実篤ウィルス」の特徴

「   ますます賢く

 僕も八十九歳になり、少し老人になったらしい。

 人間もいくらか老人になったらしい。人間としては少し老人になりすぎたらしい。いくらか賢くもなったのかも知れないが、老人になったのも事実らしい。しかし本当の人間としてはいくらか賢くなったのも事実かも知れない。本当のことはわからない。

 しかし人間はいつ一番利口になるか、わからないが、少しは賢くなった気でもあるようだが、事実と一緒に利口になったと同時に少し頭もにぶくなったかも知れない。まだ少しは頭も利口になったかも知れない。然し少しは進歩したつもりかも知れない。

 ともかく僕たちは少し利口になるつもりだが、もう少し利口になりたいとも思っている。

 皆が少しずつ進歩したいと思っている。人間はだんだん利口になり、進歩したいと思う。皆少しずつ、いゝ人間になりたい。

 いつまでも進歩したいと思っているが、あてにはならないが、進歩したいと思っている。

 僕達は益々利口になり、いろいろの点でこの上なく利口になり役にたつ人間になりたいと思っている。

 人間は益々利口になり、今後はあらゆる意味でますます賢くなり、生き方についても、万事賢くなりたいと思っている。

 ますます利口になり、万事賢くなりたく思っている。我々はますます利口になりたく思っている。

 益々かしこく。」


 なんというか。

 感想のある方は手を上げて。

 ドアを開けて外へ飛び出し、道路を泣きながら走っていってもいいです。それとも、長いあいだ電話をしていない故郷の年老いた両親へ電話をかけてみるというのはどうだろうか。あるいは、一念発起して京都パープルサンガのファンになろうと心を決めた方もいらっしゃるかもしれない。人生は様々だ。

 しかし、我々がどんな選択をしようと、巨人軍のリリーフが壊滅したという事実と、武者小路実篤によってこのような文章が制作されたという事実だけは厳然として残るのである。

高橋源一郎「(こんな作家でも)いきていてもいいですか」

 だったら出典を明記してほしいものです。全集18巻というから小学館版*1だとは思いますが、こんなのをポーンと出されて「このような文章が制作されたという事実だけは厳然として残る」ってのは文学では許されるのでしょうけれど、歴史学だったら減点ものです。


 それはさておき、もうちょっと引用します。

3 「実篤ウィルス」の他の特徴

「人間は戦争を考えるよりは、本当に平和を信じて皆が平和な人間として生きることが、出来るように思う。そして僕もそう思ってこの世に生きることが出来る陽ように思う。

 人間万歳!

 人類は平和に生きてゆけると思う。僕は少しも力こぶを入れず、それが本当の人間の世界と思う。

 それが自然と思う。

『それが本当だ』

と自分達は信じる」(「人間を信じる」より)

高橋源一郎「(こんな作家でも)いきていてもいいですか」

 ここは(お粗末ですが)出典ありましたね。確かに「自分」=「自分達」がきれいにつながっています。


 タカハシさんの分析。

3 「実篤ウィルス」の他の特徴

だが、時は流れ、「実篤ウィルス」は滅びた。いまは顧みる者もいない。なにしろ、日々、新種の超現代的ウィルスが発生し、流行している。WHOが天然痘と共に絶滅を宣言した「実篤ウィルス」を見ようと思ったら、図書館にでも行くしかない。

高橋源一郎「(こんな作家でも)いきていてもいいですか」

 昨今、私はそれを疑うようになってきました。あちこちで見かけるあやふやな日本語を見ていて「あ、実篤ウィルス?」と思うようなときもあります。むろん専門家でもなんでもないので断定はできませんが、すこし警戒したほうがいいのかもしれません。

*1:図書館に行こうとは思わない。http://kenkyuyoroku.blog84.fc2.com/blog-entry-981.html