蜀犬 日に吠ゆ

2012-01-06

[][][][][]冬のうた を読む(その22) 19:32 はてなブックマーク - 冬のうた を読む(その22) - 蜀犬 日に吠ゆ

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 消えかへり岩間にまよふ水の泡のしばし宿かる薄氷(うすこほり)かな

                         藤原良経


 『新古今集』冬歌。摂政太政大臣にして新古今時代有数の歌人だったが、三十八歳で急死した。感性の繊細な冴えと気品の人。元来『新古今』春歌の部のよさは折紙つきだが、冬歌の部も歌数が多い上に名歌も多い。新古今時代は一面「冬歌の時代」ともいえる。それらの歌は景色、環境への観察の彫りが深いのである。右もその一つだが、消えてはまた結ぶ泡がしばしの間だけ仮に宿る薄氷、そのはかなく清い結びつきに、作者は人生を視ていたか。

大岡信『折々のうた』岩波新書

 薄氷が下の句まで出てこないあたりに新古今の諧謔を感じます。


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 けふの日も夕なみちどり音(ね)に鳴(なき)てたちもかへらぬ昔をぞおもふ

                         小沢蘆庵(おざわろあん)


 家集『六帖詠草』所収。江戸後期歌人。国学、漢学にも通じ、本居宣長、上田秋成、頼山陽、香川景樹らと新興があった。心は深くあれ、されど詞は平淡なれという「ただごと歌」の理想を説いた。「夕なみちどり」は夕波に群れとぶ千鳥。古代の人麻呂が近江で作った歌で用いた、人麻呂の造語と見られる美しい表現。「たちも」も「夕なみ」が立つ姿に、立ち返る歳月をかけた言い回し。静かな調べのうちに過ぎゆく時を惜しむ思いをこめる。

大岡信『折々のうた』岩波新書

 空間にしても時間にしても雄大な歌ですね。

折々のうた (岩波新書 黄版 113)

折々のうた (岩波新書 黄版 113)