2012-01-09
■ [筆記][国文][評論][折々のうた][冬歌]冬のうた を読む(その25) 
49
かなしみのきわまるときしさまざまに物象顕(た)ちて寒(かん)の虹ある
坪野哲久(つぼのてっきゅう)
『碧巌』(昭四六)巻頭歌。昭和初年代渡辺順三らと共にプロレタリア歌人として活躍した。能登生まれの一徹な気性は、孤高、詰屈たる歌の調べにも鮮やかだが、その中から孤愁がにじみ、浪漫的な郷愁が流露する所に独特の魅力がある。思いなしか作者には虹の歌が多いように思われる。かなしみの極みのとき立ち顕われるさまざま物象とは、おそらく、物である以上に、溢れる心の姿であろう。だからこそ自然界もそれに感応するかのごとく、寒の虹が立つ。
大岡信『折々のうた』岩波新書
「虹の歌」。よりにもよって寒の虹ですか。
50
豊年(とよとし)のしるしは 尺に満ちて降る雪
中古雑唱集(ちゅうこざっしょうしゅう)
平安以来の声曲の家、綾小路家の秘説中にしるされた短詩形の歌。朝廷の五節(ごせち)の儀式と宴の折にうたわれた歌詞の一つ。今の都会生活では、たとえ大雪を喜ぶ人でも、この歌のような寿ぎかたはほとんどしなくなってしまった。大雪の年必ずしも豊年とはいえないが、かつては四季の風物の実感も、農作物の豊凶への予測といった切実な関心と切り離せなぬものだった。景色を見る目は今も同じだなどと、軽々しく言うことはできない。
大岡信『折々のうた』岩波新書

- 作者: 大岡信
- 出版社/メーカー: 岩波書店
- 発売日: 2003/05/20
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