蜀犬 日に吠ゆ

2012-08-31

[][][]すてきなタイトル~~カート・ヴォネガット・ジュニア『チャンピオンたちの朝食』ハヤカワ文庫 21:08 はてなブックマーク - すてきなタイトル~~カート・ヴォネガット・ジュニア『チャンピオンたちの朝食』ハヤカワ文庫 - 蜀犬 日に吠ゆ

 ヴォネガットSFを読んで抱く感想は、「すげえなあ」なので、話はそれでおわり。この作もすごかった。


 毎回設定がすべてのSFなので、ストーリィを追うわけにもいかない。ミステリの感想が最後を明かすタブーを、ヴォネガットの場合は第一段落から突きつけてくるのですから。


 でも、私はネタバレ上等。

まえがき

 「チャンピオンたちの朝食」という語句は、ゼネラル・ミルズ株式会社が朝食用のシリアル製品に使用している登録商標である。この本の題名にも同一の語句を使用したが、これは、ゼネラル・ミルズとの提携、あるいは同社による後援を示す意図ではなく、また、同社の優秀な製品を誹謗する意図でもない。

カート・ヴォネガット・ジュニア『チャンピオンたちの朝食』ハヤカワ文庫

 ネタバレの批判は受け付けません。、

 物語の主題はきわめて簡単。神様が作ったこのクソッタレの世界が、どういう風にクソッタレなのかという話です。神様が、この世界に住む私たちを救ってくれない。

 ヴォネガットは、作中人物を小説世界から神様のつくったこの世界に引き寄せることで救済しようとします。そうしてキルゴア・トラウトはノーベル賞までもらえてしまうのですが、それははたして誰の世界の中だったのでしょうか。


訳者あとがき

トラウト作のSFの紹介も、これまででいちばん多く、十篇を越える大サービス

カート・ヴォネガット・ジュニア『チャンピオンたちの朝食』ハヤカワ文庫

Chapter 1

 キルゴア・トラウトは、(略)SFの皮をかりて自分の理論を普及させた。

カート・ヴォネガット・ジュニア『チャンピオンたちの朝食』ハヤカワ文庫

 とあるので数えてみました。

  1. 「銀河系の手配師」(Chapter 2)
    • 雑誌掲載時の題は「悦楽の口」
  2. 「車輪の災厄」(Chapter 2)
    • 単行本ではオビに書かれた「むきだしビーバー」がタイトルを隠していた
      • 惑星リンゴ=3 の住民は石炭・石油の化石燃料を主食とする。ところが酸素が不足して絶滅する。
      • 絶滅前にゼルトールディマー星からきた生物がその文明を伝えるために宇宙を旅して地球に至る。
  3. 「いまこそ話そう」(Chapter 5)
    • ドウェイン・フーヴァーに渡してしまった本。
      • ええと、藤本先生がこれを漫画化していたと思うのですが、手元にありませんで確認できません。「滅亡した地球のかけらから人類をクローンとして復元。その実験体の夢の中で地球を復元しようとしたけど人類は下衆だったのでやめた」。というまんが。
      • 細部は違いますが大筋はそういうこと。
      • ついでに、この本を読んだドウェインが「気楽に殺ろうよ」状態になりました。
  4. 「おまえのことだ」(Chapter 8)
    • ブルジョア革命のなれの果て。
    • No Trespassing!
  5. 「ギルゴンゴ!」(Chapter 9)
    • その惑星の言葉で、それは「絶滅!」という意味だ。
  6. 「バニヤルトのバーリング=ギャフナー、または今年の傑作」(Chapter 14
    • トイレットペーパーに印刷されて発表された作品。
  7. 「ジミー・ヴァレンタインの息子」(Chapter 15)
    • O=ヘンリーの創作に登場する金庫破りの息子。
  8. 「ふたきれの酵母のあいだに交わされた対話」(Chapter 19)
    • タイトルすらない。
      • 私は現実にこの会話を聞いたことがあります。(それともそれは夢だったのか?)
  9. スマート・バニー』(Chapter 20)
    • 主人公は」「キルゴア・トラウトの」「唯一の主人公である。」

 九つで力尽きました。


 ヴォネガットは、夢から無理矢理覚めようとして現実の中に目覚めてしまったのではないでしょうか。





 改変してみる

 やがて運転手がまた一理あることをいった。彼は、自分のトラックが大気を猛毒ガスに変えていることも、この惑星がどんどん舗装道路に変えられていて、自分のトラックがどこへでも行けることも知っている。「だから、おれは自殺をしてるようなもんだ」と。

「気にしなさんな」トラウトはいった。

「おれの弟なんて、もっと悪いぜ」運転手は話をつづけた。「奴の働いている工場は、ヴェトナムの草や木を枯らす化学薬品を作ってるんだ」ヴェトナムというのは国の名前で、アメリカは飛行機からいろいろのものをそこへ落として、その国の人びとが共産主義者になるのを止めようとしている。彼の話に出てきた化学薬品は、ありとあらゆる茂みを枯らして、共産主義者たちが飛行機から身を隠せないようにしてしまおう、という目的で作られたものだ。

「気にしなさんな」トラウトはいった。

「長い目で見りゃ、やつも自殺をしてるようなもんだ」運転手はいった。「このごろのアメリカ人のありつける働き口ときたら、なにかの方法で自殺をしてるようなもんだってきがするぜ」

「一理あるね」トラウトはいった。

カート・ヴォネガット・ジュニア『チャンピオンたちの朝食』ハヤカワ文庫

 改変の余地はなかった。