2012-10-31
■ [筆記][随筆]モーパッサンのこと~~丸谷才一「星旗楼綺譚」『人形のBWH』文春文庫 
そこへいくとわが国は

- 作者: 丸谷才一
- 出版社/メーカー: 文藝春秋
- 発売日: 2012/05/10
- メディア: 文庫
- この商品を含むブログ (1件) を見る
星旗楼綺譚
モーパッサンと聞くと『女の一生』を思ひ出すのは、文学の読者としてあまり高級ではないのださうである。仏文科を出た詩人から聞いた意見だが、何しろいつも危険な意見を断定的に語る人だつたから、信用していいかどうかすこぶる疑はしい。
えーと、故人の悪口は慎むことにして、もうすこし詳しくその説を紹介すれば、彼に言はせると、モーパッサンは断然、短篇小説作家である。登場したのも、人気を博しつづけたのも短篇小説によつてであつた。こんなことフランスでは常識だ。それなのに日本で『女の一生』が評判がいいのは、トルストイが褒めちぎつたせいさ。トルストイはロシアの田舎者だから、短篇小説といふサロンの談笑から生れた文学形式がわからない。ところが日本人は人道主義的トルストイ崇拝といふ泥くさいもののせいで、彼の絶讃に追随したんだよ。
丸谷才一『人形のBWH』文春文庫
丸谷先生はこの説に反対するのですが、私にしてみれば「やはりか……」という思いです。友人とは、フランスかぶれの詩人ではなくてびっくり箱デザイナーではないのか。
コメント