蜀犬 日に吠ゆ

2013-01-19

[][][]一月一九日 足摺岬の椿を見に行って 21:50 はてなブックマーク - 一月一九日 足摺岬の椿を見に行って - 蜀犬 日に吠ゆ

一月一九日

高知県に何度か講演に行き、その度に足摺岬の椿を見に行って、人間学習の機会を持った。自殺の名所といわれる岬の近くに茶店があって、そこを経営する老夫婦が死に神退治の名人と評判だった。二人から聞いた話が胸に染みた。

「自殺者は、自分が何者か、それすら念頭にないほど自分を見失ってしまっている。体内が空っぽで、そこに死に神が入ると世間では言う。そういう状態の人は、歩き方でわかる。危ないと気付く人を見たら、すぐ夫婦で出かけて、問題の人を両側から包むようにする。そして呼吸を見計らって、その人の背中の上部を思い切り叩いてやる。相手が女ならじいさんが、男ならばあさんが叩くのだ。叩かれた人はすぐに地べたに落ちるか、舞うように上がってから地べたに落ちる。そしてぶつぶつ言ってポカーンとして、はっと正気づく。すると叫び声を上げて走りながら、岬から去って行くんですよ」と。

いま各地で自殺防止の対策が講じられているが、効果はどうか。名も顔も知らぬ相手に電話して悩みを打ち明けて相談する人は、自分自身を確保している。自殺なんかするわけがない。自分を見失って、電話相談なんか念頭にない人が死の淵に滑り落ちる。それが人間の生の姿ではないか。

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