蜀犬 日に吠ゆ

2013-08-26

[][]孤独の誕生~~橋本治『浮上せよと活字は言う』平凡社ライブラリー 23:35 はてなブックマーク - 孤独の誕生~~橋本治『浮上せよと活字は言う』平凡社ライブラリー - 蜀犬 日に吠ゆ

変貌を論ず

 自然の災害で被害に遭うのは、多く農業・漁業の第一次産業に従事している人たちだ。表現に憚りがあれば謝るが、こうした産業は、今や「見捨てられた産業」になりつつある。現に、農業・漁業を中心とする地方の多くは「過疎の土地」なのだから。見捨てられて過疎となり、しかし統計的には「暮らしやすい土地」になっている地方はいくらでもある。日本人は今や、そのように「豊か」で「寂しい」。

 「”自分”はある。その”自分”は生きて生活をしている。しかしその生活自体は、とうの昔に見捨てられたものとなっている」――こういう構図が、どこかにあるのではないか? 都市のマスコミに照らし出されるような生活をしている都市生活者達は、いつも他人の目を意識している。しかしそんなスポットを当てられない人達にとって、自分達の”生活”は、初めから「見捨てられたもの」だ。もしそうであるのなら、その”生活”が奪われたとしても、奪われた人間は冷静でいられる。

 「ともかく”自分”はあって、とうの昔に見捨てられていたような感じのしていた”生活”が、今この時、遂になくなってしまった」と思えばよいのだから。それが、今の日本人の”冷静”の正体のような気がする。

橋本治『浮上せよと活字は言う』平凡社ライブラリ

 地方が崩壊する仲で、頼るものは国になっていく。

男達はどこへ行ったか?

 日本の男は、流行には弱いが、しかし流行には強い。意外なことに、日本の男は思想的な流行には弱いが、ファッションの流行には強いのである。その”強い”は、容易に流行に冒されないということである。なぜならば、日本の昔の男達は、ファッションに疎かった。流行に冒されたいと思っても、その流行に乗れるだけの土台がないのだ。だから、日本の男達はみんな、表層の流行を”思想的な流行”に翻訳しなおして受け入れる。そういうものだけが、日本の男達の間で”流行”となるのである。

橋本治『浮上せよと活字は言う』平凡社ライブラリ

 食事についても似たようであると思います。好き嫌いですんでしまうことに理窟と膏薬をべたべた貼り付けて喜ぶ有様は、あれで「思想を語」っているつもりなのでしょうね。漫画などももうそろそろこの範疇に入ったといえましょう。

浮上せよと活字は言う (平凡社ライブラリー)

浮上せよと活字は言う (平凡社ライブラリー)


[][]「個」と「孤」~~橋本治『浮上せよと活字は言う』平凡社ライブラリー 23:35 はてなブックマーク - 「個」と「孤」~~橋本治『浮上せよと活字は言う』平凡社ライブラリー - 蜀犬 日に吠ゆ

 何度も繰り返しますが私は断然写真植字派。

目次

啓蒙を論ず 9

厳粛を嘆ず 39

改めて啓蒙を論ず 55

愚蒙を排す 69

退廃を論ず 103

断絶を論ず 117

更に断絶を論ず 131

三度断絶を論ず 147

変貌を論ず 183

男達はどこへ行ったか? 183

出版を論ず 221

物語の行方

産業となった出版に未来を発見してもしかたがない 271

いつも逸脱してしまう 289

平凡社ライブラリー版あとがき 295

橋本治『浮上せよと活字は言う』平凡社ライブラリ
物語の行方

 主義は、なぜ生まれるのだろう? それは、利権を望む人間集団があるからだ。人は、集団に属することによって、自分というものを曖昧にすることが可能になる。「集団の原理は自分の原理を代行してくれるのだ」と思えば、人はやすやすと自分を捨てる。その最たるものは、「機構だけあって人間がいない官僚主義」と呼ばれるようなものだ。最も美しい官僚主義のことを、あるいは人は「国家主義」というのかもしれない。

 そして、人は既に十分に心細く、如何なる組織も、人を満足させてはくれない。自分というものが脆弱な人間は、集団組織の中に紛れ込み、そしてその人間の脆弱さが、その集団機能を低下させて行く。会社国家日本は、自分というものが曖昧な”会社人間達”によって支えられ、その会社人間達は、会社人間でしかないことによって、会社国家日本を滅ぼす。

 集団によるしかないものが集団を維持する能力を失ったらどうなるのだろう?

 そこにあるものは”集団”という外郭だけを強く保って、そのままその内部を空想化させていく崩壊だけだ。農村の過疎も、人口流出による都市の空洞化も、原因はどちらも同じものだと、私は思う。”家族”なり”共同体”なりの維持ばかりを考えて、外郭を厚くした人間達は、そこから”それぞれの自分”という”人間”を追ったのだ。

 集団生活を営む人間の歴史は古い。がしかし、集団と距離を置いて「孤独」なる生き方を選んだ人間達の歴史も、その集団の歴史と同じように古い筈だ。人間とは、そうした形で、”人間であること”の意味を提出し続けるものなのだろう。

橋本治『浮上せよと活字は言う』平凡社ライブラリ
浮上せよと活字は言う (平凡社ライブラリー)

浮上せよと活字は言う (平凡社ライブラリー)