蜀犬 日に吠ゆ

2013-08-30

[][][]八月三〇日 『たいまつ十六年』 21:34 はてなブックマーク - 八月三〇日 『たいまつ十六年』 - 蜀犬 日に吠ゆ

八月三〇日

五〇年前の経験を今はじめて語る。聞いて下さい。

『週刊たいまつ』を発行して一六年目の一九六三年一一月に『たいまつ十六年』という本を世に出した。中身は、それまで書いた文章から選んだものと活動の記録だ。本が出てしばらくしたら波紋が広がった。TBSは、たいまつ新聞社のあれこれを一か月にわたって撮影し、それをアメリカのエミー賞コンクールに出したりした。けれど本が出たばかりの時は、反応ゼロだった。その時に「あなたの出版祝賀会をやる」という知らせが、三人の名で届いた。元市長の佐々木一郎、元議長の斎藤万蔵、金融業者の前沢純治、この三氏は私の住み働く地域の行政と商工業を牛耳ってきた保守の親分だ。それが何ゆえ私を祝うのか。ためらいを覚えながら、指定された日の夕刻に、指定された場所に行った。町で一番の料亭で、参加者一五人はみな保守の人ばかり。そこで何があったか。

「本が出ておめでとう。お祝いは皆で本を買って、よく読むことだな。きょうの酒はきっと特別にうまいぞ。お互いに存分に飲んで存分にしゃべろう」

という司会者の挨拶だけでした。そして百条敷きの大広間に数人ずつ散らばって、わいわいやり出した。

私は主催者の三氏のところに行って質問した。

「あなた方は、どうしてこんな会を催して下さったのですか」

と。三人は顔を見合わせ、それから口を開いた。まるで前から申し合わせていたように同じ言葉を発音した。

「たいまつは、おらだちの敵だ。だからつぶすわけにいかぬ」と。

――あれから五〇年、この経験を誰にも言わず、書きもしないで来た。

「敵だからつぶすわけにいかない」という一句は、個人体験のエピソードとして口にするのは軽すぎると思ったからだ。でも、このままだと、一句は消えてしまう。それで今ここに書いた。あなたよ。受けとめて下さい。

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 論的は論で倒す、という矜恃なのでしょうか。