蜀犬 日に吠ゆ

2013-10-05

[][]池田亀鑑『枕草子』岩波文庫 00:42 はてなブックマーク - 池田亀鑑『枕草子』岩波文庫 - 蜀犬 日に吠ゆ

二二一

 行幸にならぶものはなにかはあらん。御輿にたてまつるを見たてまつるには、あけくれ御前にさぶらひつかまつるともおぼえず、神々しく、いつくしう、いみじう、つねはなにともみえぬなにつかさ・姫まうちぎみさへぞ、やむごとなくめづらしくおぼゆるや。御綱の助の中・少將、いとをかし。

 近衛の大將、ものよりこdとにめでたし。近衛づかさこそなほいとをかしけれ。

 五月こそ世に知らずなまめかしきものなりけれ。されど、この世に絶えたる事なめれば、いとくちをし。昔語(ふかしがたり)に人のいふを聞き、思ひあはするに、いかなりけん。ただその日は菖蒲の藏人、かたちよきかぎり選りいだされて、藥玉(くすだま)賜はすれば、拜(はい)して腰につけなどしけんほど、いかなりけむ。ゑいのすいゑうつりよきもなどうちけんこそ、をこにもをかしうもおぼゆれ。かへらせ給ふ御輿のさきに、獅子・狛犬など舞ひ、あはれさる事のあらん、ほととぎすうち鳴き、ころのほどさへにるものなかりけんかし。

 行幸はめでたきものの、君達(きんだち)、車などのこのましう乗りこぼれて、上下走らせなどするがなきぞくちをしき。さやうなる車のおしわけて立ちなどするこそ、心ときめきはすれ。

小池田亀鑑『枕草子』岩波文庫
枕草子 (岩波文庫)

枕草子 (岩波文庫)