蜀犬 日に吠ゆ

2017-02-05

[]北杜夫『幽霊 さびしい王様』新潮現代文学49 新潮社 21:27 はてなブックマーク - 北杜夫『幽霊 さびしい王様』新潮現代文学49 新潮社 - 蜀犬 日に吠ゆ

 「さびしい王様」を、久しぶりに読みました。大部昔に読んだような気がしていましたが、ちっとも覚えていなかったので新鮮な気分で読めます。アシモフ「黒後家蜘蛛」なども、けっこう何度も楽しめるのですよね。頭悪い人ほど、ミステリに向いている。

 閑話休題(それはさておき)、さびしい王様のおぼろげな記憶は、王様という役割の窮屈さをあらわした話という感じで、あとは時事ネタ。再読しても、そのことはあまり変わりませんでした。でも、精読すると印象は違うのかもしれないぞ、というふうに感じます。

新潮現代文学 49 幽霊 さびしい王様

新潮現代文学 49 幽霊 さびしい王様

(この書影、アマゾンですが、馬鹿にしていると思います。No Imageでいいのに。)

 以下、感想。

 これは、「嘘とすれ違い」話であるように思いました。

 前半部分、 王様を操り人形として、石油の利権を手中に収めて私腹を肥やす総理大臣、という舞台設定が、すでに「単純化された世界」です。総理大臣は、王様に嘘八百を並べ立て、実権を掌握します。王様は、総理大臣の忠誠を信じたために自分の本心を押し隠して嘘にあわせて嘘をつきます。そうして王宮の誰もが、嘘で嘘を隠し続ける茶番を演じることになります。

 中盤は、嘘の出所がばらばらになります。革命政府、革命軍に便乗しようとする高官、亡命した総理大臣は、自分たちの嘘と、他人の嘘に振り回されつづけます。

 後半は、流離の王の物語。王は、王であることを棄ててはじめて「自分らしさ」を取り戻す、というのであれば単純なのですが、そうはいきません。アッシュア地方の人々は、亡命した王の言葉にいちいち疑心暗鬼になります。チャレンジャー教授は、話が通じません。むしろ、言葉がほとんど通じないガーツガツ(大食いバトルのライバル)とのほうが、忌憚のない関係を築けたくらい。

 どうしてこんなに話が通じないのでしょう。おそらく王様は「無知」、総理大臣は「我利」のためなのでしょう。そういうふうに書いてあるのでしょうけれども。しかし、それだけではないような気もするのです。

 また、読み返す。

 

さびしい王様
  • 第一の前がき
  • 第二の前がき
  • 第三の前がき
  • 第四の前がき
  • 第五の前がき
  • 第六の前がき
  • 第一章 王様は目覚められる
  • 第二章 真相ということについて
  • 第三章 王様の父君
  • 第四章 残された王子
  • 第五章 大サイン学について
  • 第六章 王様にもロマンスがある
  • 第七章 オレンジからオッパイへ
  • 第八章 呼鈴女登場
  • 第九章 革命軍との攻防
  • 第十章 複雑な逃避行
  • 第十一章 亡命余話
  • 第十二章 アッシュア地方へ
  • 第十三章 役人と間諜
  • 第十四章 ふしぎなハッとする少女
  • 第十五章 革命その後
  • 第十六章 失望と混乱
  • 第十七章 あちこちで深まる謎
  • 第十八章 超の好きな気違い博士
  • 第十九章 いよいよ終章の前の章
  • 第二十章 暗黒のなかの終末
  • 第一のあとがき
  • 第二のあとがき
  • 第三のあとがき
  • 第四のあとがき
  • 第五のあとがき
  • 第六のあとがき
北杜夫「さびしい王様」新潮社