蜀犬 日に吠ゆ

2017-10-09

[][][][]『泣き虫弱虫諸葛孔明』 第四部 文春文庫 17:44 はてなブックマーク - 『泣き虫弱虫諸葛孔明』 第四部 文春文庫 - 蜀犬 日に吠ゆ

 第肆部ではないんですね。

 さて、第参部が赤壁でして、孔明先生絶好調。

 そして第四部となりますと、蜀とり、でございまして、ついに天下三分なる。しかし、広大な領土を得て曹操、孫策に並ぶとなるところでついに劉備三兄弟は離ればなれになります。すなわち劉備は漢中獲得のため、陽平関を拠点に置く(軍師は法正)。関羽は荊州を呉軍から守るため外交や戦争に翻弄される(魏だってもちろん攻めてくる)。蜀の都で留守を守るのは諸葛孔明。

 三国鼎立は、決して天下の安定をもたらすものではなかったわけで、事態いよいよ風雲の急なるを告げるわけですが、緊迫してきたせいで、ギャグがなくなり、孔明の変態性もどんどん失われていくのが悲しい。幕の裏で変な踊りをおどるくらいで、あとは主君劉備のため、蜀の民のためにひたすら働くのみである。劉備の参謀となった法正だって、ぐんしーするわけではないですし。

 孫夫人を孔明邸に招待したとき、諸葛均夫妻がまだいたあたりはギャグを忘れていない感じですけど、陸遜が八陣図に捕らわれたとき、なぜか登場する黄承彦(こうしょうげん)などは、第壱部の三顧の礼のときにだいぶいじっていましたが、今回はサラッと流されてしまったのでさびしい。「えーいわしが出ずしてどうする」「お父様やめて」と黄氏(孔明夫人)とかけあいをしていた頃が、懐かしい。

 関羽が死んだら、こうですよ。

 われわれは今、最も『三国志』らしい部分を見ているのかもしれない。この天下の情勢において、義弟の讐(あだ)うちということのためのみに、大戦を起こそうとしている。いや、おこす劉備という人物のことである。こんな理由で戦さをおこす、しかも状況は否であるというのに、敢えてやるという執念。劉備の東征は『三国志』物語の中で最も面白いというか、グッとくる名場面なのではなかろうか。歴史上、希有なことであるに違いない。

酒見賢一『泣き虫弱虫諸葛孔明』第四部 文春文庫

 しんみりそんなことを語られたら、「ギャグをもっと! まめ知識をもっと!」と騒いでいる私がアホみたいではないですか。麦城の関羽を見殺しにした劉封を処刑したあとしくしく泣いても、変態性が足りない。

 慌てて付け足しをいいますけれど、面白かったですよ。初期と作風がちょっと変わったなあ、ということが言いたかっただけです。

 連載および単行本の方は第五部(伍かしら)で完結したということです。つまり前半が南蛮遠征、後半は「出師の表」ですか。楽しみです。