蜀犬 日に吠ゆ

2009-07-28

[][][]ワトスンのいないロンドン、ホームズのいない世界~~コナンドイル 延原謙『ドイル傑作集』1 ミステリー編新 潮文庫 21:13 はてなブックマーク - ワトスンのいないロンドン、ホームズのいない世界~~コナンドイル 延原謙『ドイル傑作集』1 ミステリー編新 潮文庫 - 蜀犬 日に吠ゆ

 短編集。

ドイル傑作集 1 ミステリー編 (新潮文庫 (ト-3-11))

ドイル傑作集 1 ミステリー編 (新潮文庫 (ト-3-11))

 以下、もちろんネタバレ。犯人バレ

  • 消えた臨急 The Lost Special
    • 臨急が消える。
      • 一八九〇年のロンドン・エンド・ウエスト・コースト鉄道会社では、一マイル五シリングの割りで臨時列車が出せたのですか。
      • もちろん、二マイルだけやってくれ、などと言えばはっ倒されるのでしょうが。
      • そういう規定があること自体が、階級社会っぽいですね。
    • そして消える。
  • 甲虫採集家 The Beetle-Hunter
    • スタンダード新聞に以下の広告。
      • 『医師を一日または数日間雇いたし。身体強健、精神強固、決断力旺盛にして、昆虫特に甲虫学者ならばなお可。ブルック街七七Bへ本人来談、本日正午まで。』
      • ああ、赤毛連盟ね。もしくは三人ガリデブ。
    • 延原氏の翻訳は、文庫版が昭和三二年という時代がかったもので感動的ですらあります。
      • 「それどころか、甲虫こそは僕の自信をもって知っておりますと答えられる学問の一つです。」
      • 「そうと聞いては狂喜する思いです。では甲虫について話して下さい」
        • 「狂喜する思いです」って、完全冷静じゃないですか。
      • 一日二〇ポンドという破格の待遇。
    • しかし舞台はロンドンからパディントンの駅を発してパングホーンへ。
      • まだらのひも? 田舎のヘンクツと言えばまだらのひも。
    • サー・トーマス・ロシッター、甲虫収集家にして…
      • 愛ゆえに、傷つけ合わねばならないのか?
  • 時計だらけの男 The Man with the Watches
    • 一八九一年、ロンドンからマンチェスターへ向かう列車の中で事件発生。
    • 一等車両には男女の二人連れと一人の紳士が乗っていたが、ラグビー駅に着いてみると三人とも忽然と消えうせ、代わりに一人の死体が残されていた。
      • そしてこの死体は、身許を示すものをもたず、ただたくさんの高価な時計を身につけていた……
        • 結論から言ってしまうとこの男は時計商だったので、時計をたくさんもっていたのでした。
    • 犯行に使われたのがピストルであることから、犯人はアメリカ人と推定されました。
      • 「これは男のほうがピストルを持っていたことを思うと、いっそう確実味をます。イギリス人はピストルなんぞあまり持ち歩かない。」
        • それはすこしひどいのではないか。
  • 漆器の箱 The Japanned Box
    • これは読んでいる途中でネタが分かりましたが、それは二〇世紀に生きているがゆえの後出しジャンケンでしょうね。
    • そして睡眠薬としてクロロダインを摂取する家庭教師は結果としてクビになりました、と。
  • 膚黒医師 The Black Doctor
    • ビショップズ交叉点(クロッシング)とは、リヴァプール港から西南へ十マイルの小さな村。
    • そこに膚黒医師がやってきて患者の信頼をかちえ、土地の名士の妹との縁談も決まる。
    • しかし突然医師により婚約は破棄。
    • 医師死亡。婚約者の兄が捜査線上にうかびあがる。
    • 裁判では、死んだ膚黒医師自らが出廷して弁護の論陣を張る。
  • ユダヤの胸牌 The Jew's Breastplate
    • ベルモア街博物館所蔵のウリムとトンミム(裁判を行なうユダヤの高僧が用いた胸あて。旧約聖書『出エジプト記』二八章三〇節)の宝石が涜される。
      • ウリムとトンミムって、知りませんでしたねえ。ファンタジー系のゲームで登場しましたっけか。
        • そしてその胸牌には、十二の宝石が金の台座に収まっています。
          • ユダヤ十二支族をあらわす?
          • 四個づつ三段になった宝石は、左から、
            • 一段目 紅玉髄(カーニリアン)、濃緑のかんらん石、緑玉(エメラルド)、紅玉(ルビー)
            • 二段目 青金石(ラピス・ラズリ)、しまめのう、青玉(サファイア)、めのう
            • 三段目 紫水晶、黄玉(トパーズ)、緑柱石(ベリル)、そして碧玉(ジャスパー)
  • 悪夢の部屋 The Nightmare Room
    • 紳士が二人、美女が一人。事件は一つ。
      • そして、すべてを見つめるものが部屋の隅に控えています。
  • 五十年後 Jhon Huxford's Hiatus
    • 風が吹けば桶屋が儲かる。
    • 南アメリカのコルク工場が開業するとカナダの追い剥ぎがたいして稼げない仕事に精を出す。
      • 「南国のことで色のあさ黒い二百人の工員たちが、英国の工員であったらとうてい一人も我慢するもののないような安い工賃で、熟練した手さきを巧みに使って働らいた。」ユニクロ?

2009-06-25

ひどすぎる

[][][][]山本周五郎『シャーロック・ホームズ異聞』作品社 19:58 はてなブックマーク - 山本周五郎『シャーロック・ホームズ異聞』作品社 - 蜀犬 日に吠ゆ

 収録作品の、まだ「シャーロック・ホームズ」しか読んでいませんが、大満足!

 ひどすぎる! 笑いが止まらない!

 ハードカヴァーでお値段が\2800であったため買うのをためらっていましたが、「愛って、ためらわないことさ」と刑事さんが言っていたのでついに購入。

 編者解説より

「シャーロック・ホームズ」(「新少年」一九三五年一二月別冊附録)

 博文館の少年雑誌「新少年」の別冊附録に一挙掲載された長編で、本書が単行本への初収録となる。

山本周五郎『シャーロック・ホームズ異聞』作品社

 本作は、コナン・ドイル原作、山本周五郎訳述とされているが、翻訳でも翻案でもなく基本的に周五郎のオリジナル・ストーリーである。北原尚彦『シャーロック・ホームズ万華鏡』(本の雑誌社、二〇〇七年八月)によると、「確認されている最も古いホームズ・パロディは、『シャーロック・ホームズの冒険』が『ストランド』誌に掲載されて数か月後には書かれている」とある。本作も伝統あるホームズ・パロディの一篇といえよう。

山本周五郎『シャーロック・ホームズ異聞』作品社

 何が素晴らしいのかというと、「探偵活劇+乱歩風味+パロディ」の息もつげないたたみかけですね。文子姉さんが死んだ場面で、失礼ながらニヤニヤが止まりませんでした。

 例によって勝手に目次を作ります。

シャーロック・ホームズ

  1. 五号館殺人事件
    1. 浮浪児凡太郎
    2. シャーロック・ホームズ
    3. 奇怪な足跡?
    4. 酔っぱらいの男
  2. 支那街の冒険
    1. 老婆の訪問
    2. 跟ける凡太郎
    3. 美人の身許
    4. 怪ラマ食人種
  3. 男爵邸の事件
    1. 緑色の脅迫状!
    2. 真田男爵
    3. モンゴール王の宝玉
    4. 三通の「王の書面」
  4. 死の魔手迫る
    1. 凡太郎の活躍
    2. 悪漢と名探偵
    3. 逆襲
    4. 附け狙う眼
  5. 虎狼の牙
    1. 寝がえりをうつ?
    2. 裏のまた裏
    3. 狼と虎の取引
    4. 捕縛
    5. 「王の書面」が揃った
  6. 第二の殺人事件
    1. 二つの花束
    2. 虎狼罠を破る
    3. あ! しまった!!
    4. 庭の足跡?
  7. ホームズの死
    1. 意外な事は外にも
    2. 軽井沢山荘
    3. あ! 空だ!!
    4. ホームズの死
  8. 怪しい老人
    1. 雨の支那街
    2. 海上の狙撃者
    3. 雨中の追撃
    4. 壮烈なる血戦
  9. まだらの紐
    1. こちらはホームズ
    2. 奇妙な邂逅
    3. 第三の殺人事件
    4. まだらの紐
  10. 美しき出帆
    1. 夜の冒険
    2. 危機一髪!
    3. 万事解決!
    4. 大団円・美しき出帆

活劇パート

 ホームズは、グールド先生の研究*1では1854年生まれ。本作の設定は1934年ですよ! つまりホームズ80歳。ロイヤルゼリーパワーで元気とはいってもタクシーに悪漢の自動車がぶつけてくるし、蒸気船で追いつ追われつするし、お爺ちゃん、無理しすぎ。とうぜんバリツの腕前も健在です。

「あッ畜生!」

 寒石麟は猛然とホームズに跳りかかった、刹那! ホームズは一歩ひらいて、寒石麟の腕を掴むと、肩にかけざま、

「やっ!」

 と叫んでみごとに投出す、――同時に二三人の刑事が跳りかかって手錠をはめた。

山本周五郎『シャーロック・ホームズ異聞』作品社

 ラストシーンも、お爺ちゃん、無理しすぎ。ジョセフ・ジョースターもビックリの元気老人ですよ。


乱歩パート

 うち捨てられた洋館に、和装麗人の死体。

 支那街の演し物「怪ラマ食人種ショー」。まあ、植民地からきた謎の人物が事件を巻き起こすのは正典でもそうですけれど、怪ラマ食人種て。矮人で毒の吹き矢って。


パロディパート

 真田男爵の次女静子さんは「ホームズもの」の愛読者。メタ文学! この世界では、原作者はドイルでしょうかワトスン君でしょうか。

 軽井沢の冒険で唐突に瀧壺へと落ちてゆくホームズ! いよっ名人芸!

 文子姉さん死す! もちろん死に際に「紐…」! ドースル、ドースル?

 しかし私だってベイカー街に乗りこんだら、火かき棒をためす欲望に勝てるか分からないのであります。

1854-01-06

[][]一月六日 はてなブックマーク - 一月六日 - 蜀犬 日に吠ゆ

 それはヘンリー・ダヴィッド・ソローが、『ウォールデン、森の生活』を書いた年であった。また共和党が、米国ウィスコンシン州のライポンで結成された年でもあった。

 同時にその年は、ローマ・カトリック教会が聖母マリアの無原罪の御孕り(訳注一―1*1)の教義を信仰箇条と認めた年でもあった。

『世界年鑑』の一八五四年(注一―一*2)の項を見ると、これらのできごとが重要事項としてあげられている。

 ところがいうまでもなく、この年鑑はいちばん大事なことを載せ忘れてしまっている。一八五四年、一月六日金曜日の明け方に、サイガー・ホームズとヴァイオレット・ホームズ夫妻の三男、末子が生まれたのだ。場所は、イングランドのヨークシア州北ライディングのマイクロフト農場(注一―二*3)であった。北ライディングは、馬の飼育場と、風の吹きすさぶ丘(ワーザリング・ハイツ)(エミリー・ブロンテの『嵐が丘』の舞台)で、有名なところである。

W・S・ベアリング・グールド著小林司・東山あかね訳『シャーロック・ホームズ ガス灯に浮かぶその生涯』河出文庫

*1:「無原罪の御孕り」とは聖母マリアがキリストを身ごもった瞬間から原罪を免れていたこと。原罪とは全人類が、アダムとイヴが犯した罪の結果として神の恩寵を喪失している状態。

*2:一八五四年は英国の戦争史上でも、もっとも輝かしい一ページの一つである軽旅団の突撃が行われた年である。すなわち、クリミア戦争で戦っていた英国軽騎兵旅団の隊員六百七十名が、包囲攻撃を受けていたセバストポールから十二キロ離れた地点のバラクラヴァで重装備のロシア砲兵隊を攻撃したのであった。

*3:「我が農場(マイ・クロフト)」と、ホームズ家の大昔の先祖がかつて叫んだことがあって、これ以来ホームズの家と農場は「マイクロフト」と呼ばれることになった。さらにこの農場の名称はサイガー・ホームズの兄と、サイガー・ホームズの次男の名前ともなった。