蜀犬 日に吠ゆ

2009-08-06

[][][][][]田中芳樹『黒竜譚異聞』祥伝社文庫 22:06 はてなブックマーク - 田中芳樹『黒竜譚異聞』祥伝社文庫 - 蜀犬 日に吠ゆ

 感想書いたのに間違って消した。

黒竜潭異聞 (祥伝社文庫)

黒竜潭異聞 (祥伝社文庫)

  • 宛城の少女(西晋)
  • 徽音殿の井戸(南北朝・宋)
  • 蕭家の兄弟(南北朝・梁)
  • 匹夫の勇(南北朝・陳)
  • 猫鬼(隋)
  • 寒泉亭の殺人(唐・盛唐)
  • 黒道兇日の女(唐・中唐)
  • 騎豹女侠(唐・中唐)
  • 風梢将軍(宋・南宋)
  • 阿羅壬の鏡(宋・南宋)
  • 黒竜譚異聞(明)

2009-06-05

[][][][]リューベックを覆う闇~~田中芳樹『バルト海の復讐』光文社文庫 21:27 はてなブックマーク - リューベックを覆う闇~~田中芳樹『バルト海の復讐』光文社文庫 - 蜀犬 日に吠ゆ

 チェーザレの挫折によって自由の翼を得ました。

 おそらく中学生向けくらいの海洋冒険小説。このくらいが私にはちょうどいいです。

バルト海の復讐 (光文社文庫)

バルト海の復讐 (光文社文庫)

 舞台は15世紀後半リューベック。バルト海を制するハンザ同盟の内部で動く怪しい陰謀!何も知らない主人公ははからずもその渦中に呑みこまれてゆくわけですね。

目次

第一章

主人公、海に放りこまれること――7

第二章

主人公、ホゲ婆さんに借金すること――38

第三章

主人公、故郷へ帰ること――67

第四章

主人公、旧友たちと再会すること――102

第五章

主人公、故郷から逃げ出すこと――135

第六章

主人公、謎の解明に挑むこと――165

第七章

主人公、斬りあいを経験すること――197

第八章

主人公、行方が知れぬこと――228

第九章

主人公、再出発すること――255

後記

解説

田中芳樹『バルト海の復讐』光文社文庫

 事件も一つだけしか起こりませんし、話の筋は単純明快。

 途中にしばしば作者が紹介する世界史ウンチクも分かり易い。

 主人公エリック船長の造形も、単純。正直者で、礼儀正しいけれどもいくぶん世間知らず。腕っぷしはそこそこで、ピンチになってもあわてない。実に、中学生的ヒーローですね。(設定は20歳そこそこらしいですけど。)


 私がこういうプロットを組むとなると、ホゲ婆さんが本当に魔法使いだったり(超常の力を現実的に肉付けする素養がない)とか、メテラーが実は良い奴だったり(敵方を徹底的にハイレベルにしきれない、主人公があるていど低脳でもなんとかなってしまうくらいに設定する)ということになりそうですね。もちろん話はグダグダになります。逆に、そういう部分、ホゲ婆さんがきちんと歴史的に超常の力をもっていたり、メテラーが下衆であることをエリックが判断したりしたので物語を楽しめました。痛快活劇というのはこういうものだ! という作品。文字組もゆったりしていて、さくさく読めました。

 途中からパーティに参加する騎士ギュンターもまた、典型的な兄貴分として、卓越した戦闘力、ざっくばらんな物言い、不義の蓄財を嫌う清廉、そして(流浪の身とはいえ)帝国騎士(ライヒスリツター)でありドイツ騎士団やリューベック傭兵隊長にコネがある! すごすぎる! お前がリーダーだ! しかしそれでも事件の当事者であるエリックがあくまでもヒーローであるところが、また心躍らせる演出なのです。

 TRPGであれば2~3人分のキャラクターを一つにまとめた感じか。


 1点だけ、私と語感のあわなかったのが「憮然」。

 どうでもいいことなのですが、呉智英信者である自分用としてメモ。

「いや、そこまでの仲じゃないが」

「だろうね。お前さん、もてそうにないからね。大昔から、まじめな働き者より美男の悪党のほうが女にもてるのものさ」

 美男の悪党がもてる、か。そういえばブルーノはよく女にもてた。エリックは憮然とした。

田中芳樹『バルト海の復讐』光文社文庫

「妙な想像しなくていいよ。あたしゃ男に対しては好みがうるさいんだ。金髪で色が白くて儚げで天使みたいな美青年がいいね。お前さんは潮風にさらされてるし、バルト海の水にまで浸かってるから落第だ。もとはそう悪くないようだけど、よっぽどみがきこむ必要があるね」

 エリックとしては憮然とするしかない。

「そりゃ悪かったな」

「おいおい、すねることはないそ。婆さんの毒牙にかからずすんだわけだから、両親が金髪に生んでくれなかったのを、むしろ感謝するんだな」

田中芳樹『バルト海の復讐』光文社文庫

 ここは、わたしなら「不愉快な表情をした」とか「不機嫌を顔に表した」ですね。それだと冗長になるから、「憮然」なのでしょうか。


 おなじみ『論語』微子第十八から引きます。

微子第十八(461~471)

466 (略)子路行以告。夫子憮然曰。鳥獣不可与同羣。吾非斯人之徒。与而誰与。(略)

(訓)(略)子路行(さ)りて以て告ぐ。夫子憮然として曰く、鳥と獣は与に羣を同じくすべからず。(吾は斯の人の徒と与にするに非ずして、誰と与にせん。)吾は斯の人の徒に非ず。而(なんじ)と与に誰に与(くみ)せん。(略)

(新)(略)子路が帰ってきて報告した。孔子はしんみりして言った。鳥と獣はいっしょに群をつくることはできない。私はあの人たちと仲間になりたくてもなれない。

宮崎市定『現代語訳 論語』岩波現代文庫

 「憮然」はしんみり。自称200歳のホゲ婆さんにつれなくされて、「エリックしんみり」?

 まあしんみりはははは、の類。普通は「がっかり」でしょう。

子路がそのことを申しあげると、先生はがっかりしていわれた、

金谷治『論語』岩波文庫

 (吉川・宇野両氏は「憮然」そのままで訳出。)

子路は去って戻り、報告した。老先生はしらけてこうおっしゃられた。

加地伸行『論語』講談社学術文庫

 「もてないね」といわれて「エリックしらける」。これは、ありそうですね。

 これからわかるように、「憮然」とは内向的な感じの言葉である。しかし、今では噴出せんばかりの怒りを辛くも圧しとどめた外向的な感じの言葉として使われる。漢詩を書こうという堀田善衞でさえ、そんな風に使っているのだ。

 どうしてこうなったのか。おそらく、ブゼンという音感によるものだろう。ブスッとふてくされた感じがするからだ。

呉智英『ロゴスの名はロゴス』双葉文庫

 まあどうでもいい些末な言葉遣いで小説の魅力が増減するわけではないですけれどもね。

 業??田中芳樹『とっぴんぱらりのぷう』光文社 - 蜀犬 日に吠ゆ - 片割れ星第1号では、別に引用しなかったのですが

久美 いやあのですね、憧れがあるのと、本当に愛があるのと、関心があるのと、微妙に違うと思うんですよ。

 ジブリの話ばっかりして申し訳ないんですけど、あんっっっだけ! 戦闘機とかに愛があるのに、山羊に上の歯描いたりするわけです。山羊って上の歯ないのに。

田中 ああ、なるほど(笑)。作り手の人たちも、そこまでは観察していないわけですね。

久美 『もののけ姫』とか、山ほど動物が出てくるんだから、動物スタッフつければいいのに。背景とかあんなにがんばってるのに。でもだから、その人の関心がほんとに向いてるとこってのがあるんですね。「どう見てもそれ、狼じゃない」けどおおくの人は違和感を感じない。

田中芳樹『とっぴんぱらりのぷう』光文社

 ヤギの前歯。だからといってジブリの作品の価値を損なうものでもないでしょう。


 と、書き写すうちに考えたのは、翻ってわたしが「拘る部分」、「すこーんと抜けている部分」って、一体どんなものか、自分で自分のことは分からないものだなあ、ということでした。このブログにしても本サイトにしても、とりあえず「飽きっぽい」「穴だらけ」ということは分かるのですが、じゃあこだわりのない、悟りの境地であるとも思えないのですよね。

2009-02-09

[][][]業~~田中芳樹『とっぴんぱらりのぷう』光文社 21:35 はてなブックマーク - 業~~田中芳樹『とっぴんぱらりのぷう』光文社 - 蜀犬 日に吠ゆ

 田中芳樹のブックガイド。

とっぴんぱらりのぷぅ

とっぴんぱらりのぷぅ

 子供の頃に読んだ本がオーソリティというかスタンダードになるというのはその通りだと思いました。いま、昔の思い出の本を読もうとしても手に入らなかったりすると、日本の現状を悲観したくなりますが、いまの子供たちには今の子供たちなりの読書体験があるのでしょう。

 生きとし生けるものが、よい本と出会いますように。

2008-12-02

[][][]因果は巡り、歴史は繰り返し、人馬は進む~~田中芳樹『隋唐演義』五 中公文庫 21:26 はてなブックマーク - 因果は巡り、歴史は繰り返し、人馬は進む~~田中芳樹『隋唐演義』五 中公文庫 - 蜀犬 日に吠ゆ

 読了。

隋唐演義〈5〉玄宗と楊貴妃ノ巻 (中公文庫)

隋唐演義〈5〉玄宗と楊貴妃ノ巻 (中公文庫)

 第五巻は楊貴妃が死んで玄宗が長安に帰還して大団円を迎えます。安史の乱の戦いはあまりにもあっさりなので、隋末唐初の英雄伝のような壮麗さはなく、安禄山は子の策略に殺されました。

 しかし、タラス河畔の戦いでアッバース朝と激戦を戦い抜いた高仙芝が、宦官の讒言であっさり資材になったのは驚きました。西方での活躍も全然演義では取り上げられていないし。則天文字もそうですが、興味深いエピソードというのは移り変わるものなのだなあ、と思いました。


 水滸伝では魔王が伏魔殿から逃げ出すという種明かしをしてから物語が始まりましたが、隋唐演義は最後に輪廻の解き明かしがあって話が終わります。天界にゆくため仏典を誦すというのも、中国的。

 7月に高島先生の「しくじった皇帝たち」を読んで読み返した『隋唐演義』でした。



前巻までの筆記

治乱興亡の第4巻!??田中芳樹『隋唐演義』四 中公文庫 - 蜀犬 日に吠ゆ - 片割れ星第1号

頂点は、つねに一人??田中芳樹『隋唐演義』三 中公文庫 - 蜀犬 日に吠ゆ - 片割れ星第1号

瀰漫せし微睡??田中芳樹編訳『隋唐演義』二 中公文庫 - 蜀犬 日に吠ゆ - 片割れ星第1号

好漢、惜しむらくは天の時未だ来たらず??田中芳樹編訳『隋唐演義』一 中公文庫 - 蜀犬 日に吠ゆ - 片割れ星第1号

2008-11-18

[][][]瀰漫せし微睡~~田中芳樹編訳『隋唐演義』二 中公文庫 23:58 はてなブックマーク - 瀰漫せし微睡~~田中芳樹編訳『隋唐演義』二 中公文庫 - 蜀犬 日に吠ゆ

 第二巻の主人公は隋の煬帝。後宮での生活が主に描写されるのでたるい。

隋唐演義〈2〉隋の煬帝ノ巻 (中公文庫)

隋唐演義〈2〉隋の煬帝ノ巻 (中公文庫)

 しかし時勢はいよいよ急を告げ、ついに竇建徳は義起に踏み切ります。

 巻末の対談でも話題になっていましたが、煬帝への筆は非常にやさしいのが隋唐演義の特徴なのかもしれません。煬帝は後宮に入り浸りで朝政をないがしろにしますが、その隙をついて私腹を肥やすものこそ天下の奸佞であり、確かに煬帝はたまに政務を執ると収賄や汚職の臣を残虐な極刑にかけるという役回りなのですよね。にもかかわらず佞臣が後を絶たないあたりが、煬帝の人徳なのでしょうけれども。

 で、いよいよ大運河の開削と高句麗出兵が始まりますので、煬帝の天命も極まる、と言うところで時間に続きます。可哀想に!



[][][]好漢、惜しむらくは天の時未だ来たらず~~田中芳樹編訳『隋唐演義』一 中公文庫 17:22 はてなブックマーク - 好漢、惜しむらくは天の時未だ来たらず~~田中芳樹編訳『隋唐演義』一 中公文庫 - 蜀犬 日に吠ゆ

 再挑戦。

隋唐演義〈1〉群雄雌伏ノ巻 (中公文庫)

隋唐演義〈1〉群雄雌伏ノ巻 (中公文庫)

 初めて読んだときには冒頭の楊堅伝(文帝紀ですがね)の退屈さに10頁も読めず挫折。かえすがえすも吉川英治の『三国志』は名作。あの、川岸で船を待って茶を買う劉備のエピソードは秀逸です。そして母が茶を捨てて「天下に志を持つのですよ」と諭すシーン。これは惹き込まれますよ。


 で、我慢して読み始めるものの次から次へと登場人物が現れて早くも混乱。南朝北朝の創始者たちが羅列されますがこれは話にほとんど関係ありません。


 文帝楊堅の次子楊広は兄を謀略で廃嫡し太子となるとついには文帝の突然死に際しその位を襲います。それはまあ、知っています。


 秦叔宝がでてくるあたりから、ようやく面白くなってきます。第十二回、北斉の武門の血をひく秦叔宝は零落しつつも豪傑と交流してひとかどの名声を得ています。風雲の志で仕官しますが、公用の帰り道、宿の主に財産を見られてしまい、主張奇は邪心を起こします。


 部屋の扉は長年の間に滑りが悪くなっていたので、張奇はいきなりそれを蹴破って室内におどりこんだ。そしてまっすぐ銀にとびかかった。無謀すぎた。叔宝は反射的に拳をあげ、一撃で水牛を打ちたおすほどの強烈な殴打を張奇のあごにくらわせた。ふっ飛んだ張奇は壁に激突し、頭蓋を砕かれて即死した。鼻と口から血を噴き出して床に落ちる。

 外からいっせいに大声があがった。

「強盗が人を傷つけたぞ!」

 張奇の妻の悲鳴。叔宝は愕然とした。

「死んだ人も不運だが、おれの兇運にも愛想がつきる。何でこんなことになってしまったんだ」

田中芳樹『隋唐演義』中公文庫

 ヒャッホー!好漢たるもの、悪気はなくともちょいと撫でただけでうっかり小悪人を殺してナンボですよね。俄然面白くなってきました。