蜀犬 日に吠ゆ

2014-03-23

[][][]フランクリン『フランクリン自伝』中公クラシックス 21:37 はてなブックマーク - フランクリン『フランクリン自伝』中公クラシックス - 蜀犬 日に吠ゆ

 自伝文学の傑作といえば、『フランクリン自伝』、『福翁自伝』。(どうか「ケッサク」といふことなかれ)

 自慢話が、ちっともイヤミでないところがすばらしい。傑物とは、こういうものですよね。

第六章 十三の徳目の樹立

 まことに、人間が生まれもった感情のなかで、”思いあがり”ほど抑えがたいものはたぶんないのではないか。思いあがりというものは、どんなに偽りかくそうとしても、組み打ちして、思うぞんぶん殴りつけ、息の根をとめ、そして抑えつけておいても、依然、生きていて、ときどき頭をのぞかせたり、姿を現したりする。この物語のなかでも、おそらくそういった私の思いあがりが、たびたび姿をみせていることだろう。なぜかといえば、私は自分の思いあがりをたとえ完全に克服してしまったと考えることができたとしても、もしそうなれば、今度はおそらく自分の謙譲の美徳を自慢するという思いあがりをおかすことになるからだ。

http://katawareboshi01.g.hatena.

 ……なってますよね。客観的に自分を見たうえでなおこの記述。傑作まちがいなし。


 この章は、ヨーロッパとのタフ・ネゴシエーションの時期であったので、世界史を変えてしまう業績をあげたフランクリンが「わーいわーい」となるのもむべなるかな。

 ついでなのでこのときの「十三の徳目」も書き留めておきます。

第六章 十三の徳目の樹立
  • 一、節制
    • 頭が鈍るほど食べないこと。
    • 酔って浮かれだすほど飲まないこと。
  • 二、沈黙
    • 他人または自分自身の利益にならないことはしゃべらないこと。
    • つまらぬ話は避けること。
  • 三、規律
    • 自分の持ちものはすべて置くべき場所をきめておくこと。
    • 自分の仕事はそれぞれ時間をきめてやること。
  • 四、決断
    • やるべきことを実行する決心をすること。決心したことは必ず実行すること。
  • 五、節約
    • 他人または自分のためにならないことに金を使わないこと。すなわち、むだな金は使わないこと。
  • 六、勤勉
    • 時間を無駄にしないこと。有益な仕事に従事すること。必要のない行為はすべて切りすてること。
  • 七、誠実
    • 策略をもちいて人を傷つけないこと。
    • 悪意をもたず、公正な判断を下すこと。発言するさいも同様。
  • 八、正義
    • 他人の利益をそこなったり、あたえるべきものをあたえないで、他人に損害をおよぼさないこと。
  • 九、中庸
    • 両極端を避けること。激怒する侮辱をたとえ受けたにせよ、一歩その手前でこらえて激怒は抑えること。
  • 十、清潔
    • 身体、衣服、住居の不潔を黙認しないこと。
  • 十一、平静
    • 小さなこと、つまり、日常茶飯事で、避けがたい出来事で心を乱さないこと。
  • 十二、純潔
    • 性の営みは建康、または子孫のためにのみこれを行なって、決してそれにふけって頭の働きを鈍らせたり、身体を衰弱させ、自分自身、または他人の平和な生活や信用をそこなわないこと。
  • 十三、謙譲
    • キリストとソクラテスにみならうこと。
http://katawareboshi01.g.hatena.
フランクリン自伝 (中公クラシックス)

フランクリン自伝 (中公クラシックス)

第六章 十三の徳目の樹立
十三の徳目

 私が道徳的に完璧な域に達しようという、大胆で困難な計画を思いついたのは、このころのことだった。

http://katawareboshi01.g.hatena.
第六章 十三の徳目の樹立
十三の徳目

 私は、この小さな手帳にその題句(モットー)として、アディソンの『カトー』からの一節を書きつけておいた。

私はこのような信念をいだいている。

もし神が(造化の妙なるによって

自然が高らかに告げるごとくに)

われらが上に存在したもうなら、

神は徳を嘉(よみ)したもうに相違なく

そしてまた神の嘉したもうものは

かならずや祝福されるであろう。

もう一つの題句はキケロの言葉からであった。

おお、汝、人生の道案内を務める学問よ、美徳をもとめ、悪徳をしりぞける学問よ。汝の教えに従って有益にすごしたる一日は、過失にみちた永遠の生よりも望ましい。

さらにもう一つは、ソロモンの「箴言」からで、知恵と徳とについて述べたものだった。

その右の手には長きいのちあり、その左の手には富と尊貴(とうとき)あり。その途(みち)は楽しき途なり、その径(みち)すじはことごとく平康(やす)し。

http://katawareboshi01.g.hatena.

2014-01-05

[][][][]J.L.ボルヘス『伝奇集』岩波文庫 16:27 はてなブックマーク - J.L.ボルヘス『伝奇集』岩波文庫 - 蜀犬 日に吠ゆ

 目次を紹介

伝奇集 (岩波文庫)

伝奇集 (岩波文庫)

目次
伝奇集
八岐の園
  • プロローグ
  • トレーン、ウクバール、オルビス・テルティウス
  • アル・ムターシムを求めて
  • 『ドン・キホーテ』の著者、ピエール・メナール
  • 円環の廃墟
  • バビロニアのくじ
  • ハーバート・クエインの作品の検討
  • バベルの図書館
  • 八岐の園
ボルヘス『伝奇集』岩波文庫

 清水義範『ドン・キホーテ』岩波現代文庫 を読み始めたところでして。

 当然セルバンテスは登場するのでしょうけれど、それと、セルバンテス言うところの『ドン・キホーテ伝』作者のベレンヘーナ、さらにセルバンテスを憎む『偽ドン・キホーテ』作者アベリャネーダが出てきました。ここまででるなら、ホイヘンスおじさんにも出てきて欲しいものだ、というのは、わたしはもう『末裔』の第1章で頭が混乱し、筋をたどれなくなりつつあるからです。だったら、

以上が(中略)メナールの目に見える作品である(中略)。ここでわたしは別の作品に話を移したい。それは、(中略)『ドン・キホーテ』第一部の第九章と第三十八章、さらに第二十二章の断片からなっている。このような説明がナンセンスと思われることは、わたしも知っている。

ボルヘス「『ドン・キホーテの著者』ピエール・メナール」『伝奇集』岩波文庫

 からはじまるホラ話も加えて、是非に話をもっと滅裂にしてもらってかまわないくらい。

ドン・キホーテの末裔 (岩波現代文庫)

ドン・キホーテの末裔 (岩波現代文庫)

2012-09-11

[][][]トラウトの夢~~カート・ヴォネガット・ジュニア『チャンピオンたちの朝食』ハヤカワ文庫(その2) 23:52 はてなブックマーク - トラウトの夢~~カート・ヴォネガット・ジュニア『チャンピオンたちの朝食』ハヤカワ文庫(その2) - 蜀犬 日に吠ゆ

 キルゴア=トラウトの夢想は藤本先生のSF短篇にも載っていますよね。地球の最後の一人が外宇宙聖人のつくった仮想世界で生活し、捨てられる話。

 あといくつか、SF(すこしふしぎ)要素がありましたが、酔っぱらっているので本文(ほんもん)を辿れない。

 あと、「うゆりずく」「とろむ」「むやましてちちう」の話題があり、(1973年頃の)アメリカでも違和感を覚える人がいたのだと思いました。解決できない難題なのですね。


2012-08-31

[][][]すてきなタイトル~~カート・ヴォネガット・ジュニア『チャンピオンたちの朝食』ハヤカワ文庫 21:08 はてなブックマーク - すてきなタイトル~~カート・ヴォネガット・ジュニア『チャンピオンたちの朝食』ハヤカワ文庫 - 蜀犬 日に吠ゆ

 ヴォネガットSFを読んで抱く感想は、「すげえなあ」なので、話はそれでおわり。この作もすごかった。


 毎回設定がすべてのSFなので、ストーリィを追うわけにもいかない。ミステリの感想が最後を明かすタブーを、ヴォネガットの場合は第一段落から突きつけてくるのですから。


 でも、私はネタバレ上等。

まえがき

 「チャンピオンたちの朝食」という語句は、ゼネラル・ミルズ株式会社が朝食用のシリアル製品に使用している登録商標である。この本の題名にも同一の語句を使用したが、これは、ゼネラル・ミルズとの提携、あるいは同社による後援を示す意図ではなく、また、同社の優秀な製品を誹謗する意図でもない。

カート・ヴォネガット・ジュニア『チャンピオンたちの朝食』ハヤカワ文庫

 ネタバレの批判は受け付けません。、

 物語の主題はきわめて簡単。神様が作ったこのクソッタレの世界が、どういう風にクソッタレなのかという話です。神様が、この世界に住む私たちを救ってくれない。

 ヴォネガットは、作中人物を小説世界から神様のつくったこの世界に引き寄せることで救済しようとします。そうしてキルゴア・トラウトはノーベル賞までもらえてしまうのですが、それははたして誰の世界の中だったのでしょうか。


訳者あとがき

トラウト作のSFの紹介も、これまででいちばん多く、十篇を越える大サービス

カート・ヴォネガット・ジュニア『チャンピオンたちの朝食』ハヤカワ文庫

Chapter 1

 キルゴア・トラウトは、(略)SFの皮をかりて自分の理論を普及させた。

カート・ヴォネガット・ジュニア『チャンピオンたちの朝食』ハヤカワ文庫

 とあるので数えてみました。

  1. 「銀河系の手配師」(Chapter 2)
    • 雑誌掲載時の題は「悦楽の口」
  2. 「車輪の災厄」(Chapter 2)
    • 単行本ではオビに書かれた「むきだしビーバー」がタイトルを隠していた
      • 惑星リンゴ=3 の住民は石炭・石油の化石燃料を主食とする。ところが酸素が不足して絶滅する。
      • 絶滅前にゼルトールディマー星からきた生物がその文明を伝えるために宇宙を旅して地球に至る。
  3. 「いまこそ話そう」(Chapter 5)
    • ドウェイン・フーヴァーに渡してしまった本。
      • ええと、藤本先生がこれを漫画化していたと思うのですが、手元にありませんで確認できません。「滅亡した地球のかけらから人類をクローンとして復元。その実験体の夢の中で地球を復元しようとしたけど人類は下衆だったのでやめた」。というまんが。
      • 細部は違いますが大筋はそういうこと。
      • ついでに、この本を読んだドウェインが「気楽に殺ろうよ」状態になりました。
  4. 「おまえのことだ」(Chapter 8)
    • ブルジョア革命のなれの果て。
    • No Trespassing!
  5. 「ギルゴンゴ!」(Chapter 9)
    • その惑星の言葉で、それは「絶滅!」という意味だ。
  6. 「バニヤルトのバーリング=ギャフナー、または今年の傑作」(Chapter 14
    • トイレットペーパーに印刷されて発表された作品。
  7. 「ジミー・ヴァレンタインの息子」(Chapter 15)
    • O=ヘンリーの創作に登場する金庫破りの息子。
  8. 「ふたきれの酵母のあいだに交わされた対話」(Chapter 19)
    • タイトルすらない。
      • 私は現実にこの会話を聞いたことがあります。(それともそれは夢だったのか?)
  9. スマート・バニー』(Chapter 20)
    • 主人公は」「キルゴア・トラウトの」「唯一の主人公である。」

 九つで力尽きました。


 ヴォネガットは、夢から無理矢理覚めようとして現実の中に目覚めてしまったのではないでしょうか。





 改変してみる

 やがて運転手がまた一理あることをいった。彼は、自分のトラックが大気を猛毒ガスに変えていることも、この惑星がどんどん舗装道路に変えられていて、自分のトラックがどこへでも行けることも知っている。「だから、おれは自殺をしてるようなもんだ」と。

「気にしなさんな」トラウトはいった。

「おれの弟なんて、もっと悪いぜ」運転手は話をつづけた。「奴の働いている工場は、ヴェトナムの草や木を枯らす化学薬品を作ってるんだ」ヴェトナムというのは国の名前で、アメリカは飛行機からいろいろのものをそこへ落として、その国の人びとが共産主義者になるのを止めようとしている。彼の話に出てきた化学薬品は、ありとあらゆる茂みを枯らして、共産主義者たちが飛行機から身を隠せないようにしてしまおう、という目的で作られたものだ。

「気にしなさんな」トラウトはいった。

「長い目で見りゃ、やつも自殺をしてるようなもんだ」運転手はいった。「このごろのアメリカ人のありつける働き口ときたら、なにかの方法で自殺をしてるようなもんだってきがするぜ」

「一理あるね」トラウトはいった。

カート・ヴォネガット・ジュニア『チャンピオンたちの朝食』ハヤカワ文庫

 改変の余地はなかった。

2010-09-18

[][]リタ・ジョンスン『スヌーピーと生きる』朝日文庫 22:03 はてなブックマーク - リタ・ジョンスン『スヌーピーと生きる』朝日文庫 - 蜀犬 日に吠ゆ

 わたしの『ピーナッツ』は、基本的には講談社+αなので、時系列とか時代状況との対比とかそういうのは全然分からないのですよね。まあ『ドーナツ』も同じですけど。

 シュルツという漫画家は、生きているうちからこんなに研究されていたのですねえ。「赤毛の女の子」にまでインタビューが及んでいますし、もちろん「チャーリーブラウン」の人生(それは「チャーリーブラウン」に翻弄されてしまったのですが)も抑えてあります。ほかにもいくつかの作品を発表しているとはいえ、シュルツという漫画家の業績は『ピーナッツ』であり、シュルツの人生もまた『ピーナッツ』に閉じこめられているのでしょうね。以前読んだときには気づかなかった、シュルツの漫画家としてのこだわり、絵で笑わせる、というのは、『ピーナッツ』に哲学や文学を感じてしまう私の心を大きく打ちました。「『スヌーピィ可愛い!』でも、『ピーナッツ』の魅力はそんなんじゃなくて深い人間観察だよね!」とか言っていい気になっている時期が、私にもありました。恥ずべきことです。

2010-08-11

[][][]マーク・トウェイン『ハックルベリー・フィンの冒険』上 岩波文庫 を読む。(その1) 21:04 はてなブックマーク - マーク・トウェイン『ハックルベリー・フィンの冒険』上 岩波文庫 を読む。(その1) - 蜀犬 日に吠ゆ

 本棚をさらうシリーズ。

 まずは訳者による舞台の解説から。

はしがき

 この物語はだいたいにおいて、作者自身の少年時代の経験をもとに書かれたものと考えられる。ハックの育った町セント・ピーターズバーグは、マーク・トウェインが四歳から十八歳のころまで住んでいたミズーリ州ハニバルであろう。アメリカの地図をひろげてみると、ほぼ中央を南北にミシシッピー川が流れていて、その中ほどにセント・ルイスという大都会が目につくが、ハニバルはそこから百五十キロばかり川をさかのぼったところにある。

 マーク・トウェインは一八三五年生まれだから、ハニバルで少年時代を過ごしたのは一八四〇年代から五〇年代にかけて、日本ではそろそろ幕末のさわがしい時期にさしかかるころである。

 ミズーリ州は、南北の勢力争いの妥協のために、一八二一年に奴隷制度を認める州として誕生した。その後、南北の対立は次第にはげしくなって、やがて南北戦争という形で決裂する。しかし、マーク・トウェインの少年時代のいなか町では、そんな険悪な空気はほとんど感じられなかったらしい。少なくとも作者の少年時代の記憶には強く残っていないようである。

マーク・トウェイン『ハックルベリー・フィンの冒険』上 岩波文庫
ハックルベリー・フィンの冒険〈上〉 (岩波文庫)

ハックルベリー・フィンの冒険〈上〉 (岩波文庫)