蜀犬 日に吠ゆ

2017-06-10

[][][]家島彦一『イブン・バットゥータの世界大旅行』平凡社新書 15:50 はてなブックマーク - 家島彦一『イブン・バットゥータの世界大旅行』平凡社新書 - 蜀犬 日に吠ゆ

 アブー・アブド・アッラー・ムハンマド・ブン・アブド・アッラー・ブン・ムハンマド・ブン・イブラーヒーム・ブン・ムハンマド・ブン・イブラーヒーム・ブン・ユースフ・アッラワーティー・アッタンジーによる『Tuhfat al-Nussar fi Ghara'ib al-Amsar wa 'Aja'ib al-Asfar(諸都市の新規さと旅の驚異に関する観察者たちへの贈り物)』、あるいは『Rihlat Ibn Battuta(イブン・バットゥータの旅(リフラ)』、普通はイブン=バットゥータの『三大陸周遊記(大旅行記)』で知られる書物を、日本語訳した筆者自らが解説。

 本編『大旅行記』は平凡社の東洋文庫で全8巻なので、とても読めないとして、まあ新書でお手軽にその旅行をなぞってみようという本であります。

 冒頭から、ウォーラーステインが提唱した「近代世界システム」と、そこから始まる論議の一つとしてアブー・ルゴドが打ち出した「前期的世界システム」の話で、懐かしい。私もてっきりウォーラステインにハマった口でして、ただこれを考察するには、学際領域の広範な知識と、各文化文明圏における多様な政治経済システムへの理解がなければ成らないため、挫折したのです。

 名著、臼井隆一郎『コーヒーが廻り、世界史が廻る』中公新書は、それをテーマ史としてわかりやすく落とし込んだ作品で、その後たくさん登場した「モノの世界史」の視点を切り開きました。それを方法論の本として読み取れなかった不明の日々よ。

閑話休題。その内容について、目次を引用。

『イブン・バットゥータの世界大旅行』 目次

  • はじめに … 9
  • 序章イ スラームと旅、移動 … 15
    • 1 旅の原点は何か … 16
    • 2 イスラーム教徒にとっての移動観 … 19
      • ヒジュラ/リフラ/ハッジ(メッカ巡礼)
    • 3 出会いの接点としてのイスラーム都市 … 33
  • 第一章 拡大する一三・一四世紀のイスラーム世界 … 39
    • 1 「前期的世界システム」の形成 … 40
      • 八つのサブ・システム/イスラーム世界と「パクス・モンゴリカ」の統合
    • 2 モンゴルの衝撃(インパクト)とディアスポラ(人間拡散) … 48
      • モンゴルの衝撃(インパクト)/人の移動と地域再編
    • 3 マムルーク朝経済圏の拡大 … 53
      • マムルーク朝の成立/国際間に生きるカーリミー商人
    • 4 つなぎの場としての海域世界――インド洋と地中海 … 63
      • インド洋海域世界/地中海世界
  • 第二章 『大旅行記』という書物 … 71
    • 1 巡礼紀行文学の発達 … 72
      • メッカ巡礼書について/イブン・ジュバイルとイブン・バットゥータの関連
    • 2 『大旅行記』の成立 … 79
      • イブン・バットゥータの生い立ちと生涯/晩年のイブン・バットゥータ
      • 『大旅行記』の編纂/編纂者イブン・ジュザイイについて
    • 3 写本と校訂本 … 94
      • 『大旅行記』の構成/『大旅行記』の研究
  • 第三章 イブン・バットゥータの旅(1)――タンジールからメッカまで … 103
    • 1 故郷タンジールを門出 … 104
      • ふるさとの町タンジール/マグリブ巡礼隊に参加/旅仲間との結婚、そして離婚
    • 2 マムルーク朝統治下のエジプトとシリア … 114
      • 将来の旅を予見する不思議な聖者との出会い/沙漠を貫く緑のベルト、ナイル川の旅
      • パレスティナ海岸の諸都市を経てダマスク明日へ/シリア巡礼道を通過してメディナへ
    • 3 最初のメッカ巡礼 … 128
      • メッカ到着の歓び/四回にわたるメッカ訪問
  • 第四章 イブン・バットゥータの旅(2)――中東世界からキプチャク大草原へ … 133
    • 1 イラクとイランの旅 … 134
      • アラビア半島縦断の旅/イラクのシーア派聖地/船でサワード地方を行く
      • イラン高原の旅/イル・ハーン朝下のイラク地方
    • 2 紅海からアラビア海へ … 148
      • 紅海を南下して/スワヒリ文化圏の形成/乳香木の茂る南アラビア
    • 3 トルコ・アナトリアと黒海沿岸 … 166
      • インドまでの大迂回ルートを探って/アナトリアの群小イスラーム侯国
      • 黒海を越えてクリミア半島へ/キプチャク・ハーン国とブルガールの旅
      • ビザンティン皇女とともにコンスタンティノープルへ

  • 第五章 イブン・バットゥータの旅(3)――中央アジアとインド … 181
    • 1 ヒンドゥー・クシュを越えてインドへ … 182
      • アジアの心臓部を行く/雪深いヒンドゥー・クシュを越えてインダス河畔に
      • インダス川流域の旅/デリー滞在の八年
    • 2 インドの南西海岸に沿って … 190
      • デリーを離れる/最大の危機に遭遇/海上交易で栄えるマラバール海岸
      • カーリクート港での惨劇
    • 3 南海の女王国を訪ねて … 201
      • 環礁の連なる島じま/群島の支配をめぐる抗争
    • 4 スリランカ、南インドを経てベンガルへ … 206
      • 宝石の国スリランカ/マァバル地方のマドゥライ・イスラーム王国を訪ねて
      • 黄金の三角地帯ベンガル
  • 第六章 イブン・バットゥータの旅(4)――東南アジアと中国 … 219
    • 1 ジャンクに乗って中国へ … 220
      • アンダマン海を行く/マラッカ海峡を制したスムトラ・パサイ王国
      • 南シナ海を北上し、一路泉州へ
    • 2 元朝支配下の中国 … 228
      • 泉州に上陸/運河を通ってハーン・バリークへ
    • 3 故郷モロッコへの帰還のたび … 234
      • 巨鳥ルフとの遭遇/インド洋横断の航海/四度目のメッカ巡礼の旅
      • 帰国を決意して地中海を渡る
  • 第七章 イブン・バットゥータの旅(5)――アンダルスとブラック・アフリカ … 245
    • 1 アンダルスの栄華 … 246
      • ジブラルタル海峡を渡る
    • 2 サハラ砂漠を越えてブラック・アフリカへ … 252
      • ブラック・アフリカ旅行の目的は何か/首都ファースを経てサハラ砂漠に踏み入る
      • マーッリーの王都はどこか/ニジェールの川旅
      • タッシリ・ナッジェールの高地を越える/ファース帰還
  • 結び イブン・バットゥータの旅の虚像と実像 … 271
      • 『大旅行記』の信憑性をめぐる議論/イブン・バットゥータの見た世界像
      • 旅の本来の目的は何か
  • あとがき … 285
  • イブン・バットゥータの旅の年譜 … 289
  • 参考文献 … 293
家島彦一『イブン・バットゥータの世界大旅行』平凡社新書

 と、読んでいて、晩年のイブン・バットゥータがサハラ縦断するくだり。地図の中に、

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 14世紀なのに、「カカオ」って書いてあるー!*1

 本文にはカカオのことなどまったく出てきませんから、これは編集スタッフが用意した地図が19世紀以降のものだったのでしょう。ちょっとびっくりして「ヨーロッパに伝わってなかっただけで、イスラム圏ではもはや?」とかググってしまいました。

*1:カカオ豆、およびチョコレート・ココアは侵略者コルテスが新大陸アステカから持ち帰った

2014-11-24

[][][]バートン版大場正史『アラビアンナイト千夜一夜物語拾遺』角川ソフィア文庫 18:59 はてなブックマーク - バートン版大場正史『アラビアンナイト千夜一夜物語拾遺』角川ソフィア文庫 - 蜀犬 日に吠ゆ

 千夜一夜物語は長大なので手を出しづらい。かといって怖じ気づいて触れずに済ますわけにもいかない。ということで、このくらいを知っていればいいという基準を学ぶために読み始めたら、いきなりシェヘラザードの物語がない。これでいいのでしょうか。

アラビアンナイト
目次
  • アラジンと不思議なランプ 5
  • アリ・ババと四十人の盗賊 185
  • 道化者アブ・アル・ハサン 239
  • 賢者と三人の息子の話 303
  • 強盗と女の話 309
  • 三人の男と主イサの話 317
  • 王座と財宝をとり返した王の話 323
  • ふさぎ屋とペテン師の話 331
  • ふたりのいかさま師の話 335
  • いかさま師と両替屋と驢馬の話 351
  • 解説 西尾哲夫 357
バートン版大場正史『アラビアンナイト千夜一夜物語拾遺』角川ソフィア文庫

 なんといいますか、いかさま師の跳梁跋扈ぶりが「商人の文明」を匂わせますねえ。

2013-09-23

[][][]F・スターク『暗殺教団の谷』教養文庫 社会思想社 19:07 はてなブックマーク - F・スターク『暗殺教団の谷』教養文庫 社会思想社 - 蜀犬 日に吠ゆ

 ゲームブックみたいな書名ですが、ノンフィクションです。

 目次を書き写してみると、ゲームブックみたいだ。

目次

まえがき
1 暗殺教団の谷への旅……11
  • 暗殺教団(アサシン)
  • 出発(たびだち)
  • 私の仲間たち
  • アムラート地方
  • 暗殺教団の谷へ
  • アムラート岩
  • アジーズの故郷
  • ネヴィール・シャー城
2 ラミアサルにある暗殺教団の城……60
  • モンゴルと暗殺教団の城
  • クルド人の村
  • いよいよ城へ
3 ソロモンの王座……81
  • シット・ザイナバルの墓
  • アラムートの医師
  • 村の生活
  • 三つの結婚式
  • 羊飼いの親方
  • 湯治場
  • ソロモンの王座
  • 森林から来た牧夫
  • 湯治場
  • カラール・ダシュトカラールの位置
  • ラーフー
  • チャールース川流域の一夜
  • ビージェノーの領主
  • シオリス峠を越えてターラガーンへ
  • シャー。ルード上流
  • テヘランまで
4 宝探し……210
  • バグダードの苦力たち
  • 財宝
  • 国境通過
  • 水のない山
  • 客人歓待の掟
  • 大山脈(カビール・クー)
  • ガラウでの夜
  • 部族生活
  • 不信心者の谷
  • ラルティー族の谷
  • ヒンディミニー族の谷
  • バニー・パルワル族の墓地
  • 逮捕される
  • 盗賊たちとの優しい出来事
  • ガラウへ戻る
  • アーフターブの森
  • プシュティ・クー地方の首府へ
  • プシュティ・クーの政庁
  • マンダリーへの道
  • ガンギールの谷
  • バグダードでの結末
 訳者あとがき……336
F・スターク『暗殺教団の谷』教養文庫 社会思想社

 なんというか、目次を書き写したら「読んだも同然」の安心感。全然読めません。

 なんで、イランの山中に「ソロモンの王座」?

2012-06-28

[][][]財務官が国を滅ぼす 23:00 はてなブックマーク - 財務官が国を滅ぼす - 蜀犬 日に吠ゆ

第三章 王朝、王権、カリフ位、政府官職

〔三七〕王朝の後期にには商税が課せられる

王朝に関係している税務官僚は莫大な税収を取り扱い、そのために彼らの地位もその重要性を増すので、したがって多くの富を獲得している。それで税金を盗用しているという疑いの的となり、税務官相互の猜疑心や嫉妬のために、ある者が他の者を中傷するということが普通になってくる。お互いに没収や科料によって金を奪いあい、最後には富はなくなり、破綻してしまう。そこで王朝は彼らを通じて維持してきた壮麗さや威厳を失う。

イブン=ハルドゥーン/森本公誠『歴史序説』2 岩波文庫

 失ってしまいました。

歴史序説 (2) (岩波文庫)

歴史序説 (2) (岩波文庫)

2011-08-28

[][][]増税が消費税を狙うのは、王朝が衰退期だから~~イブン=ハルドゥーン『歴史序説』2 岩波文庫 20:51 はてなブックマーク - 増税が消費税を狙うのは、王朝が衰退期だから~~イブン=ハルドゥーン『歴史序説』2 岩波文庫 - 蜀犬 日に吠ゆ

 再掲。

第3章 王朝、王権、カリフ位、政府官職

三七 王朝の後期には商税が課せられる

 ところが、やがて王朝は都会生活の風潮に染まって奢侈とその習慣を身につけはじめる。そして前代の王朝と同じ轍を踏む。その結果、王朝の人々の支出が増大し、とりわけ支配者の支出は、側近のための支出や彼らに与える莫大な手当のために極度に増大する。そこで正規の税収入だけではこれらすべてをまかなうことができないので、王朝は税収入を増やさねばならない。というのは、軍隊にもより多くの手当を必要とし、支配者自身も自分の支出を支払うために多くの金銭を必要とするからである。そこですでに述べたように最初は各人に対する割当課税額が増加される。ついで奢侈の習慣と兵士の手当の増大に伴って必要経費が増加するので、ついにはその王朝は老衰病にかかる。その王朝の連帯集団はまったく弱体化し、諸州や遠隔地方から租税を集めることができなくなる。こうして税収入は減少するのに、(お金のかかる)習慣は増える。兵士の俸給や手当もまた増加する。そのために、支配者は新しい税種を導入しなければならず、その税を商品に課すことになる。すなわち支配者は市場で売られる商品の値段に一定額の税を付け加えたり、都市の門で(通過する)商品に税を課す。結局、人々の奢侈が多くの手当を要求することと、加えて軍隊や守備兵の兵員増加とによって、支配者はこの課税を推し進めざるをえなくなる。こうして王朝の後期には、えてして税が過重となり、利益を得る望みがなくなるため、市場が不振となる。

イブン=ハルドゥーン『歴史序説』2 岩波文庫

 ザッピングでチラ見した民主党代表候補者が、あんまりにもあんまりで、まるきり自民党レベル*1だったので日本新党からこっち、この国は駄目になっちまったという印象しかありません。もちろん、宇野とか、海部が立派だったというつもりはないんですけど、財務省(旧大蔵省)の物品税阻止はよかった。

 消費税は地下鉄に毒(自粛)より多くの人を不幸に追いやっている。なーんて嘘に引っかかる、か? 引っかからないね!

歴史序説 (2) (岩波文庫)

歴史序説 (2) (岩波文庫)

*1:民主党がアホばっかりなので自民党という意見には賛同しません。自民党はカスばっかりでしょう。

2010-08-19

[][][]滑って転んでおおいたけん~~ジェイソン・グッドウィン『イスタンブールの群狼』ハヤカワ・ミステリ文庫 19:43 はてなブックマーク - 滑って転んでおおいたけん~~ジェイソン・グッドウィン『イスタンブールの群狼』ハヤカワ・ミステリ文庫 - 蜀犬 日に吠ゆ

 ミステリを読まないことは、時間を有効に使う技術の一つであると信奉しているわたくし母里ですが、まあオスマントルコ改革期の1836年、イスタンブルで近衛新軍士官の惨殺死体が連続発見されるとなると食指が……

 事件は1926年に廃止されたイェニチェリに関わる、と主人公である白人宦官ヤシムは調査しますが、つぎつぎ起こる猟奇殺人や新キャラの連続投入や、たまのアクションシーンを読んでいて、これはミステリなんだろうかと疑問を持ちましたが、ちゃんとミステリ仕立てでした。で、最後のアクションはないのな。

 作者はオスマントルコの歴史家で、小説はこの作品が初めて。日本では佐藤賢一的な感じなのでしょうか。イスタンブルやイェニチェリ殲滅の顛末などに関する蘊蓄は、大変ためになりました。『血と砂』のような前線では、マムルークが幅をきかせていましたが、首都はまた異なる様子。あと、ヤシムが料理をすることや市場(バザル)の食べ物の話なども興味深く、謎解き云々よりもそちらが「ためになる」本であったと言えましょう。やっぱし、みんな飲んでるよなあ……アルコール飲料を。

http://katawareboshi01.g.hatena.ne.jp/mori-tahyoue/20090816/1250408898

http://katawareboshi01.g.hatena.ne.jp/mori-tahyoue/20090820/1250771299